大江健三郎「憂い顔の童子」

・どんなにひどい目にあっても、いつも短期間で恢復します。根本のところで健康で強い人なんです。

●いかにして人は恢復できるものなのか、それが分からない。

●多分、ひとりぼっちだとそのまま枯れてしまうような気がする。

●当たり前のことであるが、深刻な傷に対しては、それに対応した時間が必要である。時間をかければいい。それでいい。待つことだ。じっとじっと待つこと。

・勇猛果敢なドン・キホーテが、恐怖する人間に変化する。ナボコフはそう見ている。

●あの、ドン・キホーテが、恐怖する人間に変わる?

そのような激しいことが起こる可能性が確かにあることも、

人間の現実である。

恐怖する人間と聞いて、すぐに頭に思い浮かぶのは、

心的外傷後のさまざまな心理的障害である。

また一方で、反応性の成分だけではなく、

内因性の成分もあるのではないかと疑いもする。

人間には必ず内部の気分変動があるものだと思う。

その変動を、外部の原因にしてしまうのは公平ではない。

少なくとも部分的には内部の要因なのだと知ることも必要ではないかと思う。