色即是空

生きていて苦痛なことがあると

厭離穢土などと言い出す

難しい言葉を使わなくても、

たとえば、地上で苦しみがあったら、地上十階くらいから見下ろしてみたら、

その苦しみも小さなものになり、回りの景色の中に紛れ込んでいくのではないかと、

期待される。

しかし同時に、地上にあった楽しみも慰めも小さく遠くなってしまう。

そこでさらに、地上までもどって、この世のいろいろを体験して味わうことになる。

色即是空、空即是色の対句はそんな意味もあるかもしれない。

理想的には、

苦しみについては、地上十階から見下ろす視点を持つ、

楽しみについては、地上一階で味わう、

こんなことになる。

そのように往還ができればよいのだが。

苦しみが強烈な時にはやむを得ず地上十階に定住することもよい。

それがかろうじて自分を守る方法である。

しかしその苦しみの後にはまた地上に還ることを忘れないでいたい。

耐えられない苦しみはないと信じたいし、

時間が経てば局面は変わると信じたいからだ。

地上十階から見た景色を形容すれば、

離人症的な感覚と言ってもいい部分があると思う。

そのようにして苦しみから距離を取る。

しかし同時に喜びも遠ざかる。

一時的にそれでいいのだ。