グーグルが医療分野に進出 ヘルス2.0 クリーブランド・クリニック PHR(パーソナル・ヘルス・レコード)

グーグルが医療分野に進出、加速するネット医療サービス
巨人もスタートアップも「ヘルス2.0」に参入
2008年3月4日 
2月24日から米国フロリダ州オーランドで開催されたHIMSS(ヘルスケア情報管理システム協会)の2008年年次大会(HIMSS08)で、グーグルのエリック・シュミットCEOが、とうとう医療健康分野に乗り出すことをアナウンスした。

昨年より噂されていた「グーグル・ヘルス(Google Health)」が、米国のトップクラスの医療機関であるクリーブランド・クリニック(オハイオ州)と共同して、パイロット・テストの形で開始されるという。

 全宇宙の情報を整理することをミッションとするグーグルは、地球上の情報だけでなく、月(Google Moon)や火星(Google Mars)などの宇宙の様子もマッピングして提供しているが、前回このコラムで紹介したゲノム情報提供サービスである23andMeに続き、グーグル・ヘルスで人間の体に関するミクロな情報をも本格的に整理し始めた。

 米国では、PHR(パーソナル・ヘルス・レコード)と呼ばれる個人向け健康医療情報提供サービスは、老舗のWebMDだけでなく、AOL創設者であるスティーブ・ケースらが5億ドルを投じてレボリューション・ヘルス(Revolution Health)を立ち上げたり、昨年10月にはマイクロソフトがPHRのプラットフォームとなるヘルス・ヴォールト(HealthVault)を発表したりと、ウェブ系企業による参入が相次いでいる。そこに、以前から噂されていたグーグル・ヘルスが参戦した。

 クリーブランド・クリニックは、もともとeクリーブランド・クリニック・マイチャートと呼ばれるPHRを10万人もの患者向けに構築しており、今回のグーグルとのパイロット・テストは、その中で1370人のボランティアの患者に協力してもらおうという計画のようだ。

 クリーブランド・クリニックにいなくても、自分の処方箋、アレルギー、病歴などの医療健康情報が閲覧できるような仕組みになるという。パイロット・テスト終了後に全米へのサービス公開が予定されているが、その時期は明らかになっていない。

 エリック・シュミットは、「グーグル・ヘルス」を利用することにより、異なるヘルスケアサービス同士でデータのポータビリティが実現できることが利点であると述べる一方で、患者の同意なしに情報を他人と共有することはなく、グーグル・ニュースと同様に広告なしのサービスとするという点を強調した。また、グーグル・ヘルスは、投薬情報や予防接種の計画情報など、サード・パーティが患者向けのサービスを構築できるようなオープン・システムにする予定であるという。

 一方、IBMは、同じ「HIMSS08」においてユニークな取り組みを発表した。仮想世界セカンドライフ内にIBMバーチャル・ヘルスケア・アイランドという島を開設するという。この島には、病院、緊急治療室、診療所、薬局、検査機関が存在し、患者は島内の自宅で自分のPHRを作ることができるだけでなく、自宅に置かれている体重計、血圧計、血糖値測定装置を使って日々のデータをPHRに保存することもできる。

 このPHRの利用は、セキュリティやプライバシーの確保が図られた環境の中で、病院内の診療データ、薬局での薬剤データ、検査機関でのCTやMRIの検査データとも連動するようになっている。つまり、患者中心の理想的な環境をセカンドライフ内で構築して見せるのだ。

 このような最新のウェブ技術を利用して構築された、ユーザー(患者)中心の医療・健康分野のアプリケーションは「ヘルス2.0」と呼ばれており、米国では同名のカンファレンスが開催されるまでに議論が盛んだ。次回は、コンシューマとプロバイダーのつながりをテーマに、3月3日からサンディエゴで開催される。

 eドラッグ・サーチという薬の情報提供ポータルサイトにおいて、ヘルス2.0カンファレンスを主催するマシュー・ホルトが、最もエキサイティングな「ヘルス2.0」企業について紹介している。

 例えば、患者同士で情報を共有するPatientsLikeMe、5万人以上もの技師がコミュニティを形成しているsermo、自然言語を活用して薬などの医療情報を検索できるdoublecheckMD、これまでの治療経験情報だけでなく患者や同業の医師からの評価情報により適切な医師を捜し出すVitalsを取り上げている。

 中でも「ヘルス2.0」に精通しているマシュー・ホルトが、医療界での革命児になる可能性を秘めているとして一押しするのは、「Carol」である。Carolのリッチなホームページを開くと買い物かごを提げた女性が現れ、日用品のeコマースサイトであるかのような雰囲気だ。Carolは、飛行機のチケットをネットで比較検討して消費者が買うように、医療サービスも患者が自由に比較選択して買えるマーケットプレイスとして登場した。

 Carolでは、男性、女性、子供が抱える症状毎に、治療内容がパッケージ化されたケア・パッケージの内容を医療機関毎に表示して、患者がケア・パッケージの内容や価格を比較し、気に入ればオンラインで診療予約することもできる。

 国民皆保険制度でない米国では、患者が加入している医療保険の内容や治療を受ける医療機関によって、同じ治療行為でも負担額が大きく異なるのは通常よくあることなので、Carolのようなマーケットプレイスで治療行為の品質や価格が透明になるのは革命的なのだ。

 現時点では、Carolが本拠地とするミネソタ州ミネアポリス周辺の17の診療機関が対象となっているが、2008年内には全米にサービスを拡大したいとの計画だ。

 「ヘルス2.0」の本質は、いわゆるWeb2.0と同様に、ユーザー中心(ユーザー・エンパワーメント)の考え方を採用している点であろう。医療情報の世界でもウェブの技術が「ヘルス2.0」を現実のものにした。

 マシュー・ホルトは、Carolが医療の世界の革命児になるのか、それとも天安門事件で戦車の下敷きになった若者のようになってしまうのかは分からないとしている。

 米国でも「ヘルス2.0」の取り組みは、まだ緒に就いたばかりで、これがメインストリームになるかどうかは分からない。しかし、ユーザー(患者)中心の考え方に異論が唱えられるはずはなく、遅かれ早かれ「ヘルス2.0」が身近なものになっていくことを期待したい。

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いまのところ「ヘルス2.0」とは言っても、
PHR(パーソナル・ヘルス・レコード)として、病歴や薬歴、日々の血圧や血糖値を記録しておく情報タンクのようなものらしい。

「男性、女性、子供が抱える症状毎に、治療内容がパッケージ化されたケア・パッケージの内容を医療機関毎に表示して、患者がケア・パッケージの内容や価格を比較し、気に入ればオンラインで診療予約することもできる。」
というあたりが、大いに怪しくて、ろくなものではないだろうと思わせられる。
ケア・パッケージの内容を検討する知性が問題で、
結局、昔からの問題、神父の父性主義の話になる。

自己決定を尊重して、間違っても自分の選択と割り切るか。
父性主義を採用して、任せるから、間違わないでくれとお願いするか。

PHRをgoogleのハードディスクに提供してしまうのは危険であるような気がする。
googleは情報を売らないとしても、
あなたが自分の情報を提供すればサービスが受けられる、得をすると誘導するだろう。
いまもアマゾンからは、自分の好きそうな本の宣伝がメールボックスに届いている。
同じ方式で、
「あなたは血圧が高い、治療をはじめよう」と
毎日メールを受け取ることになりかねない。
「最新の研究により、あなたが将来膀胱癌になるリスクは73%、いまから予防しましょう」
などと毎日のように言われたらどうだろう?