精神障害のある救急患者対応マニュアル

精神障害のある救急患者対応マニュアル
必須薬10と治療パターン40

宮岡 等 監修
上條 吉人 執筆

《評 者》黒川 顯(日医大武蔵小杉病院院長/救命救急センター長)

救急医・精神科医のすき間を埋める一冊

 昨今,精神疾患を有する人が,外傷や疾病になった時の救急医療が大きな問題になっている。この状況に自殺未遂というキーワードが加わると,初期診療をする救急病院を探すことも,身体的問題が解決したあとのフォローアップ医療の担い手を探すことも困難となる。身体科の医師は,精神疾患を診られないから引き取れないといい,精神科の医師は,少しでも身体科の問題が残っている患者は診られないと受け入れを拒否する。結局,何でも引き受けてくれる救命救急センターに運ばれ,身体的問題が解決したり,すべて解決してはいなくても急性期を脱したりした場合に,行く先がないために,いつまでも引き受けざるを得なくなってしまうのである。
 さて本書の随所にみられる薬物動態や病態の解説をみると,著者がそもそもは精神科医だったにもかかわらず,多くの救急疾患の診療にも対応する力を持っていることがよくわかる。それは,東京工業大学理学部化学科を卒業してから医学部に進学したという彼の経歴からすれば当然のこととうなずかされるとともに,持ち前の探求心と,一つひとつの症例を大切にするという日常診療への姿勢によるものであると感心させられる。
 近年,精神科医が常駐する救命救急センターが増えているが,精神科医が常駐していない施設もある。そんな施設において,本書は大いに役立つことは必至である。一方,身体科の医師がいない精神科の病院にとっては,精神科医が身体疾患を診たり,病態を考えるきっかけを与えてくれる有用な書といえる。