「結婚はしなくてもいいけど、子どもはほしいですね」

出所不明の記事から抜粋

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「結婚はしなくてもいいけど、子どもはほしいですね」

 これは女性ではなく、男性の発言。このところ、30代男性のこういった声を聞くことが多い。

 「4年つきあっている33歳の彼女がいるんだけど、仕事が楽しいとか言って、全然結婚する気がない。僕自身も、経済的に満足できているわけじゃないから、結婚となると二の足を踏むんだけど、このまま独身でいい、と断言できる勇気もないんです。できれば、彼女に子どもを産んでもらいたい」

 章さん(35歳・仮名)は、まじめな顔でそう言う。例えば結婚しないで子どもをもった場合、その子は誰がめんどうをみるのだろうか。

 「彼女が実家で生んでくれればいいなあと。そうしたら僕がしょっちゅう寄ってめんどうをみられるし、日常的には彼女の親と一緒なら安心だし。僕の実家は地方だからそれができないんですけどね」

 自分たちで育てもせずに、子どもがほしいというのはおかしいのではないか、と章さんの顔を見る。だが彼は、冗談を言っているわけではなさそうだ。

 「子どもってかわいいじゃないですか。あんまり遅くなってからよりも、今のうちにいたほうがいいと思うんです」

 とはいえ、彼は派遣社員で、正社員より年収はかなり低い。今すぐ結婚しても妊婦になって働けなくなる妻、幼い子どものめんどうはみられない。だから今のうちは妻の実家を頼って、その間、自分の生活を立て直していきたいのだという。しばらくすればまた妻も働けるだろうし、いずれは自分も何とかなるはずだから、と。

 「彼女にその話をしたら、非現実的だと笑われました。だけど先々となると、彼女の親だって年とるわけで、そうなったら子どものめんどうなんて頼めない。先に子どもだけでもと思うのは、それほど責められることなんでしょうか」

 私も非現実的だと思いながら聞いていたのだが、章さんの最後の一言で、「子どもをもつ」ということが男性にとっても、いろいろな意味でプレッシャーになっているのだということに気づいた。

 真っ先に問われるのが経済的問題。章さんの場合は、派遣社員だというだけで、周りから「結婚も子どもも非現実的な話」と切られてしまう。

 「正社員だって、中小企業なら経済的に厳しいのは一緒ですよ」

 光一さん(36歳)は、前に勤めていた会社が合併吸収され、転職を余儀なくされた。今の会社は社員20名ほどの製造業。勤めて2年になるが、ボーナスもほとんどない。

 「つきあっていた彼女とも1年前に別れました。『これじゃ結婚できないね』と。『いや、できるよ』と言ったんです。子どもができても何とかなる。経済的に厳しくても、子どもはほしい。だけど彼女には通じなかった。あげくには『あなたは私が必要というより、子どもだけいればいいと思ってるんじゃないの?』とまで言われてしまった。結婚しなくてもいいから、誰か僕の子を産んでくれないかなと最近、毎日考えているんですよ」

 彼らがイメージするのは、「家庭」ではなく「子どもと自分」だ。30代も半ばになると、自分の遺伝子を残したいという本能が突出してくるのだろうか。それにしても、彼らの中では、妻や家の存在は希薄で、子どもと向き合う自分だけがいる。これはいったい、どういうことなのだろうか。

 「結婚式を挙げて、家を準備して、家庭生活があってなんて考えていると、なんだか暗い気分になってくるんですよ。そこに至る過程がめんどくさいし、プレッシャーが大きすぎる。だから一足飛びに子どもができてしまえば、あとのことは何とかなるんじゃないかと考えてしまう。だってそもそも結婚の目的は子どもなんだから、子どもからすべてが始まってもいいような気がするんですけどね」

 もちろん順番はどうでもいいのだが、子どもは最初から大きくて聞き分けができるわけではない。大事なしつけなどのイメージは、どうやら頭にないらしい。

 「何かを変えたい。自分が絶対に信じられるものがほしい、という気持ちの裏返しなのかもしれない。それは血を分けた子でしかないのではないか。今まで意識せずに、子どもがいたらいいなあと思っていただけだったけど、よくよく考えると、自分が不安だから、絶対的に守るべきものをほしがっているのかもしれませんね」

 前出の章さんは、私と会ったあと、メールで自分の気持ちを、そんなふうに分析してきた。恋愛も結婚も吹っ飛ばして「子どもがほしい」というのは、30代後半男女の共通意識なのかもしれない。