月収14万円で余ってしまうと新聞に書かれている 柄谷行人「世界共和国へ」

元旦付け朝日で、書かれている。


そもそも私の生活はあまりに単調で何も起こらないから、
何も思わないで暮らしていることの方が圧倒的に多い。
何か思うとしたらテレビか新聞がきっかけになることが多い。


今回は新聞である。
32歳フリーターはリサイクルショップを経営している。
月収14万円、それでも余ってしまう。四畳半のアパートは
家賃23000円。家具や衣食は仲間の店で安く買える。
会社が自分たちを踏み台にするなら、
自分たちで社会を作ってしまえばいい。
そう、考えている。


写真には「全国共通券」などという文字も見える。
むかし原始共産社会を構想した人が、
共同体内での「貨幣」を創出した。
そんなことも考える。


この人たちの試みは、
生活の必要を、共同体外部に委託して、貨幣を使用する経済と、
生活の必要を共同体内部でサービスし合う経済との、
対立をきわだたせようというものだろう。


生活の必要を満たすサービスを共同体内部で決済してしまえば、
例えば、親類づきあいのようなもので、
金銭により決済されないから、消費税もかからず、国民の経済規模を計算する際には除外される。
14万円で暮らせるというのも、そのあたりで、
仲間の店で安く買えるのなら、あるいは、お金はかからず、
後々のサービスで決済するというなら、それでいいわけだ。


例えば、戦後からつい最近まで、田舎の暮らしはそんなものだった。
現金がどうしても必要な場面は限られている。
まず軍人恩給で現金が入る。そして減反政策に協力したご褒美で現金が入る。これは自民党の作った仕組みである。
そのような現金で、多少の買い物はするけれど、
概ねは現金のいらない生活をしていた。
食料は自分たちでやりとりしていたわけだし、
着る物は常に新しく更新するわけではない。
住まいも、一度は現金の出費をするけれど、
その後は特に支払いはない。
お年玉は現金であげないと格好悪い、
その程度ではないか。


だいたい、友達と話をするのに現金が必要だなどとは、
おばあちゃんには理解できない。
携帯料金に2万円とか3万円とか、中学生が使ってしまい、
友人をなくさないために必要だと親は考え、
ときどきいじめ問題をニュースで聞くと、
やはり出費は仕方ないと諦め、
そんな話も聞いたことがある。


東京で14万円で暮らすには、
まず狭い場所でも暮らせるように、所持品を少なくする。
図書館などの公共サービスをなるべく利用する。
食費を切りつめることは、病気とのかねあいがあり問題もあるが、
おおむね、現代の病気は、カロリーと脂質のとりすぎなので、
かえっていいかもしれない。
でも多分野菜はあまり食べられないのではないか。
水道料金や電力料金はどのように節約できるだろうか。
あまり家にいないこと、公共サービスを利用することがまず考えられる。家にいるだけで、上水道と下水道を使ってしまう。


思い出すのは、岩波新書2006年4月、柄谷行人「世界共和国へ」である。
著者は易しく全体を掴めるように書いたと言うつもりらしいが、充分に難しい。詳しくは本格的な物を読めというのだから、読めばひょっとするともっと分かるのかもしれない。それにしても華麗な「概念コラージュ」である。著者の思考が現実をリードするに充分な力があるとは思っていないが、これだけの先行人の著作を引用して組み立てるだけでも、かなり、相当に、巨人である。しかしこうした問題、特にマルクスやカントや経済学説や歴史解釈の門外漢の私には、華麗なコラージュ作業だと思われる。そして空想をかき立てられる言葉がちりばめられている。