ポール・サミュエルソン 成長し続ける道はある 日本よ、自信を取り戻せ

まず次の記事。

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日本経済の再生~ポール・サミュエルソン(米マサチューセッツ工科大学 名誉教授)
成長し続ける道はある 日本よ、自信を取り戻せ

サブプライム問題による金融の混乱に原材料価格の高騰──。
様々な不安要因が重なり、世界経済の行方は混迷を深めている。
そんな中、少子高齢化に直面する日本では将来への懸念が強い。
だが、ノーベル賞経済学者であるサミュエルソン名誉教授は
「日本経済には成長の方策がまだある」と悲観論を一蹴する。
“日本流”の欠陥を改め、輸出から内需主導の成長へ舵を切る。
さらに高齢者や女性を活用し、労働力の減少に対応せよ、と語る。

 1990年代初頭にバブル経済が崩壊した後、日本は「失われた10年」と呼ばれる長期の不況に陥りました。長いトンネルから抜け出して自信を取り戻したかと思いきや、日本ではまたぞろ将来への悲観的な見方が広がっているようですね。

 確かに世界経済を取り巻く環境は厳しさを増しています。サブプライムローン(米国の信用力の低い個人向け住宅融資)の焦げつきに端を発した金融市場の混乱はまだ収まっていません。原油価格が1バレル当たり100ドルを超えるなど原材料価格の高騰も続いています。

 こうした不安要因が重なり合って、世界経済の先行きには暗雲が立ち込めている。少子高齢化に伴って労働人口が減少に転じた日本で、将来に対する懸念が強まるのも無理はないのかもしれません。

 ですが、私は日本が将来に対してそれほど悲観的になる必要はないと思います。なぜなら、こうした困難な状況を打開してより豊かな国になる方策が日本にはいくつも残されているからです。

 とはいえ、日本の目の前に難題が立ちはだかっているのもまた事実です。例えば、中国やインドといった新興国が台頭し、これまでの日本の強みが失われつつある。それらの新興国が日本の成長モデルを取り入れて力をつけてきたからです。

 日本は戦後、奇跡的な急成長を遂げて、ついには米国に次ぐ世界第2位の経済大国になりました。その急成長の原動力は何だったのでしょうか。それは、日本が明治維新以来、一貫して注力してきた西洋の模倣です。

 米国で開発された製品を模倣して改良し、高品質で価格の低い製品を生産し販売する。それによって製品の輸出を増やし、自動車をはじめ多くの産業で覇権を米国から奪っていきました。

 これと同じことを今、中国やインドが日本に仕掛けているわけです。既に中国は購買力平価ベースのGDP(国内総生産)で日本を上回り、世界第2位に躍り出ています。いずれは米国をも追い抜いて世界最大の経済大国になる可能性もある。

 日本はこれまで西洋の模倣者として成功を収めてきましたが、新興国の台頭によって模倣者であり続けることはもはやできない。では、どうすべきなのでしょうか。

 研究開発に注力して独創的な製品やサービスを生み出すことです。既に日本から独創的なものは生まれ始めています。例えば、生物学の分野でこれまで行われたクローニングのうち最も重要なものは、恐らく日本の科学者の手によるものだと私は見ています。

日本流の欠陥を是正せよ
 長い不況の中では、日本独自の慣行や経営手法の欠陥も明らかになりました。そうした問題点を是正することも必要でしょう。

 例えば、日本人の貯蓄率は他国に比べて著しく高い。このこと自体は良いことですが、問題は貯蓄した資産の運用が上手ではないことです。日本銀行のゼロ金利政策によって、銀行預金の金利がゼロ近くまで下がったにもかかわらず、多くの人が預金を続けました。

 他方、外国人は金利の低い円で借り入れた資金を海外で運用して利ざやを稼いでいます。なぜ日本人もそうしないのか。私には不思議でなりません。

資産の運用が下手な点は個人だけでなく企業や政府にも当てはまります。日本政府は膨大な貿易黒字の大半を利回りの低い米国債の購入に振り向けてきた。

 これはドルに対する円の上昇を抑え、円安によって日本企業の輸出競争力を維持することが目的の1つだったのでしょう。しかし米国債の購入を続けることで、ほかの投資方法によって資産を大幅に増やす機会を日本政府は逸してしまいました。

 そして今、ドルは長期的な下落傾向にあります。米国債の購入を続けても、ドルの下落を食い止めて円高を防ぐことはできません。その一方で、円はほかの通貨に対しては下がっている。日本政府はもっと以前にドル以外の通貨の資産を増やしておくべきでした。

 ここに日本のもう1つの特徴である長期志向に伴う欠点を見て取ることができます。長期志向そのものは決して悪いことではありません。短期志向の弊害が出ている米国に比べれば、ずっとマシでしょう。ただ、長期志向の下で一度決めたことが誤りであっても、軌道修正をせずに続けてしまうところが問題なのです。日本政府が米国債を購入し続けることはまさにその典型と言えます。

 日本は世界でも有数の長寿国です。高齢者が増える一方で、その老後を支える若者の数は少子化によって減少していきます。こうした状況の下、個人も政府も資産を賢く運用して増やさなければなりません。個人の資産を増やすため、日本銀行は金利を引き上げるべきです。

 日本の人事制度にも問題があります。例えば日本企業の海外拠点に勤める外国人はそこで働くことに満足していません。いくら頑張っても、それに見合うだけの処遇や報酬を得られないからです。一方で、海外拠点で働く日本人社員も不満を抱いている。短期間で異動してしまうので、十分な経験を積むことができないことが理由です。

 それに日本企業では、英語が得意だと出世できません。海外を転々とすることになり、重要な意思決定が行われる日本の本社から遠ざかってしまうからです。経済のグローバル化が進んで海外展開が重要になっている中、英語の得意な人が昇進して重要なポストに就けないというのは誠におかしな話です。

財政出動と減税で内需拡大を
 日本の教育制度にもメスを入れる必要があるでしょう。

 日本では有名大学へ入るための受験競争が激しい。しかし、若者たちは大学に合格した時点で“燃え尽き”状態に陥り、大学生活を無為に過ごしてしまう。それでは、大学で研究に楽しみを見いだし、独創的なものを生み出そうと挑戦する若者も出てきません。

 日本が今後も経済を成長させ続けるためには、現在のように輸出主導型の成長に固執するのをやめ、内需を拡大することも必要でしょう。それには、赤字国債の発行によって財政支出を増やすとともに減税を実施することです。

 不況が長期にわたった90年代にも、日本は財政出動を果敢に実施すべきでした。29年に始まった世界大恐慌に終止符を打つために積極的に政府支出を拡大した当時のフランクリン・ルーズベルト米大統領のようにです。

 ところが財政再建を優先し、消費税の税率を引き上げた。その代わりに金利の引き下げによって景気を回復しようとしました。しかし、結果は思い通りにはならなかった。なぜなら、金利が低くなりすぎて金融政策の効果が失われる「流動性の罠」に陥ったからです。にもかかわらず、日銀は政策の誤りを認めず、ゼロ金利政策を取り続けました。その結果、不況が長期化したのです。

 不況から脱した今、恐らく国内外の保守的な人々からは増税と歳出削減による財政再建を求める声が再び強まっていることでしょう。「GDPに比べて著しく多い国債残高をいつまでも抱えておくことはできない。削減すべきだ」とね。

 しかし、日本政府は次のように反論すべきです。「それはあなたの知ったことではない。先にやらなければならない重要なことはほかにある。それは再び経済を成長させることだ。国債の残高について心配するのはその後でいい」と。

 財政支出を増やして公共投資を拡大せずに、金融緩和に頼ったから、失われた10年と言われるほど不況が長引いたのです。しかも、現在は世界経済が失速し始めている。財政支出の拡大と減税によって景気を刺激すべきです。増税による財政再建は今なすべきことではありません。

 もっとも、公共投資には注意すべき点があります。日本では建設業界の影響力が強く、公共投資の多くが道路の建設に使われる恐れがあることです。公共投資が不必要なインフラの建設費用に使われないようにチェックしなければなりません。

 少子高齢化に伴う労働人口の減少は日本にとって重大な問題ですが、これにも対策がないわけではありません。まずは定年退職しなければならない年齢を引き上げて、高齢者を活用することです。寿命が延びて健康な高齢者が増えているのですから、働いてもらわない手はありません。その方が彼らにとっても家にこもるより楽しいはずです。

雇用の多様化は良いこと
 日本は主要な働き手である男性が、仕事が終わった後も家族を置き去りにして同僚と飲み歩くおかしな国です。ほかの先進国のように夫婦の共働きを奨励し、子育ても夫婦が協力して行えるようにすべきです。

 中国など新興国との競争の激化を受けて、恐らく日本人の給与水準は今後、下がっていくはずです。労働時間も徐々に短縮されるでしょう。そうした中、家庭の働き手が2人に増えることは、家計の収入減少を防ぐことにもつながります。


インタビューの途中で足元に寄ってきた愛犬に表情を緩めるサミュエルソン名誉教授
 英エコノミスト誌などの記事で読んだのですが、日本では非正規雇用の従業員が増えていて、それを多くの人がひどい話だと考えているそうですね。私の考えは違います。

 雇用形態が多様化することは、企業の経営や経済に柔軟性を与えます。確かに正規雇用に比べて非正規雇用の従業員の給与は少なくなるでしょう。しかし失業して収入がなくなるよりはいい。

 グローバルな競争の激化に伴って、これまでの給与水準をすべての人に保証することはできなくなる。かつての社員全員が正規雇用という姿に戻ることはあり得ません。働く側にとっても雇用形態が多様化すれば、その人の生き方に合った働き方を選択できるようにもなります。決して悪い話ではありません。

 移民の受け入れについては慎重に検討すべきです。労働人口を増やすメリットが大きい半面、デメリットも少なくないからです。例えば、東欧やロシアなどから移民が流入し続けている西欧諸国では、人種間の対立が激化し、移民による犯罪が急増している。日本はこれまで、多くの移民を受け入れずに経済のグローバル化の恩恵を最も享受してきた国です。この点をよく考えるべきです。

小国にこそ手本はある
 これまで日本の是正すべき点について指摘してきましたが、私は日本に米国のようになれとは言っていません。今の米国は市場に対する適切な規制がなくなり、金儲け優先になりすぎている。こうした姿勢がサブプライムローンを生み出し、現在の金融不安を招きました。今の米国に見習うべきことはありません。

 それよりも、欧州でも著しい経済成長を遂げたアイルランドや、経済成長率は高くなくても国民一人ひとりが豊かなデンマーク、スイスといった小国にこそ学ぶべき点が多いのではないでしょうか。これらの国では市場メカニズムを重視しながらも、適切な規制が行われています。

 最後に強調しておきたいのは、経済成長率が低くても嘆くことはないということです。

 年率10%前後で成長している中国やインドに比べれば、1%台の成長率はいかにも低く感じられるかもしれません。しかし、日本はかつての新興国ではなく成熟した国なのです。事実、日本はここ数年、米国やスイスなどと同等の成長率を達成しています。失業率もほかの先進国に比べて低い水準に収まっている。

 日本はあれほど長期にわたった不況を自力で抜け出した国です。そのことに胸を張って自信を再び持つことです。そうした力を持った日本の将来を私は悲観しません。

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働ける高齢者を活用する
非正規雇用もよい
共働きしてひとり分の給料になればいい
移民は慎重に低くてもちゃんと成長しているからしい
中国と比較しないでデンマーク、スイスと比較せよ

というような話で、
なるほど、こんな系統の人たちはこんな考えなのかと思う
考えもいろいろだ

英語が得意だと出世できません。海外を転々とすることになり出世コースから外れてしまう
これもなるほど

日本はあれほど長期にわたった不況を自力で抜け出した国です
というが、うまくまたは普通にやっていればもっと早く不況が終わっていたはずではないかと
議論しているはずだと思うが?

さすがに大先生である。
インタビューを翻訳したものなので
果たして実際にこのような言い方をしているものなのか、
それについては留保しておいた方がいいが。