貧乏はどういうものか

愛のしぐさも今はもう欲しくない

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小説を読んでいるうちに
貧乏はどういうものかを思い出していた

クリスマスの日でももちろんケーキなどはない
知り合いにケーキ屋さんがいたので
ケーキを作るときに出る切れ端をもらってきていた
もちろん誰も食べなければ捨てる分である

スポンジの切れ端もおいしかったけれど
さくさくのパイの切れ端がおいしかった

紅茶と一緒に味わうでもない
そんな生活があった

私は今でも肉が嫌いだけれど
たぶん子どもの頃に肉を一切食べない生活が続いたからだと思う
カレーライスにも焼きそばにも肉は入っていなかった
魚もほとんど関係がなかった
卵は食べた記憶がある
必然的に一種の厳格ではないベジタリアンになった

それでも多分今よりは幸せだったと思う
そして私がその後いろいろと見聞した豊かな家庭の人たちよりも幸せだったと思う

いいものを食べて嘘をつき意地を張っている人たちよりは心安らかな日々だったと思う
私は間違った世界に迷い込んでしまった

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愛の言葉も今は虚しい

人間は最大限自分を許そうとする生き物だ
厚顔無恥に生き延びようとする
自分は正しいと理由なく確信し
都合の悪いものは見ないことにしてしまう

卑劣だが今はそれもかわいいとも思える
どうでもいいことだから
限りなく許せる

あくせくしているのはご苦労様だ

考えてみれば
何も気付かずあくせくしているのが一番いいのだろう
気付いてしまったあとからの苦しみはたとえようもない

汚れた苦しみの中で生きるのか
その平面を抜けたとして限りない虚無の中で生きるのか
二つに一つだとすれば
選択は難しい

私の場合は選択するまでもなく一つしか道はなかった

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愛の喧噪がいまは懐かしい
つまらないスケジュールが日常を埋めてくれるなら
それはそれで大きな祝福である
お似合いの祝福である

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こうして愛を拒絶して生きているのも
一種の環境の結果である

ただそれだけのことだと私は承知している
ここには必然も本質もない

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人は必然を求めることがある

何をしてもいいといわれて
どちらにも歩けないことがある
それが真に自由である証だ

しかしそれは苦しくて必然を求めるのだ

しかしまた必然と思えるものは幻である

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私には少女らしく愛にあこがれた日もあった
しかしそれは私の外見のせいで一ミリも前に進まなかった
それでよかった
加えて性格も恋愛向きではなかった

私には物語があれば充分だった
愛はいらなかった

年老いて思うことは
こんなことだ