舌痛症の一例

舌がピリピリ、口の中が変…歯は問題なし 歯科心身症、抗うつ薬で症状改善  
 
記事:毎日新聞社提供:毎日新聞社【2008年9月12日】
歯科心身症:舌がピリピリ、口の中が変…歯は問題なし 抗うつ薬で症状改善

 「舌がずっとピリピリする」「矯正や義歯のかみ合わせがいつまでも合わない」「口の中が何とも言えず気持ち悪い」–。こんな症状を訴える人がいる。歯科医で診察を受けても原因が分からず、治療を繰り返しても一向に良くならないことも。一体どうしたらいいのか。

 ◇脳内情報伝達に原因か 違和感に敏感な人に多く

 ■歯治療後に発症

 この状態は「歯科心身症」と呼ばれる。東京医科歯科大の豊福明教授は15年以上、この原因と治療の研究に取り組んできた。

 症状としては舌がザラザラ、ピリピリとした痛みを覚える「舌痛症」が最も多い。次いで、口の中がネバネバ、ベタベタ、ザラザラする異常感を訴える「口腔(こうくう)異常感症」▽口腔内や歯、あご、顔面に慢性的な痛みがある「非定型顔面痛」▽かみ合わせの違和感を訴える「咬合(こうごう)異常感」などがある=グラフ参照。歯科診療を受けた患者のほぼ10人に1人にみられるという。

 症状の程度は日によって変わり、午前中は比較的軽く、夕方から夜に強く表れることが多い。また、食事中やものをかんでいる時、何かに熱中しているときにはあまり感じないのが特徴だ。

 同大学病院頭頸部(とうけいぶ)心療外来を07年4潤オ9月に訪れた新規患者は218人。このうち女性が174人と、圧倒的に多い。年齢は18歳から87歳までと幅広いが、平均年齢は56歳で比較的中高年が多かった。

 歯科心身症の患者のほぼ7割は歯の治療後に発症する。治療が原因と思って別の歯科医を次々と訪ねがちだが、症状が改善されなかったり、治療を重ねるほど症状がひどくなるケースもある。

 歯科心身症の統一診断基準はなく、「日本歯科心身医学会」でガイドライン作りを進めている。目安としては、(1)口腔内の痛みの場合、痛み止めや麻酔などが効かない(2)複数の病院で診察を受けて歯自体に問題はないのに、口腔内に違和感がある(3)歯の治療をしても改善されない、などがある。

 ■熱中すると緩和

 原因は特定されていないが、脳内での情報伝達に問題があるのではないかと考えられている。豊福教授は「心の問題と一蹴(いっしゅう)されがちだが、本当に心因性のものは全体の1%程度。歯の治療後の口腔環境の変化に脳が適応できなくなっている可能性が高いと考えられる」と推測する。

 食事中や睡眠中、何かに熱中している間は症状があまり出ない理由についても、口腔内の痛みを感じる脳内の回路より、何かに熱中して他の回路が活発に動いていると、痛みをあまり感じなくなるためだと考えられている。

 ■専門医少なく

 治療では、医師の指導を受けて慢性の疼痛(とうつう)を緩和させる抗うつ薬を使う。日常生活に支障をきたすような場合でも、薬を服用すれば、症状は改善できる。個人の症状に応じて薬の種類を変えたり、薬の量も調整する。最初は少しずつ量を増やし、効果をみていく。症状が出なくなったら、量を少しずつ減らし、3カ月から半年後には飲まなくても済むことが多いという。

 「口腔内の違和感に敏感な人に症状が出やすいようだ。治療を受けずに我慢している人が多い一方で、こうした治療をしている歯科医が少ないのも大きな問題」と、豊福教授は指摘している。