創氏改名―日本の朝鮮支配の中で

 創氏改名―日本の朝鮮支配の中で 水野直樹著(新赤版1118)岩波
  
   そのねらいは何だったのか

 在日コリアンが本名とは別に通名として日本風の名前を名乗っている場面に出会うことがあります。この日本風の名前の大半は、日本の植民地支配下で朝鮮総督府の政策として実施された「創氏改名」政策(1940年)に因るものと言っていいでしょう。この政策は日本の朝鮮支配の中で最もよく知られたものの一つで、教科書にも出てきますが、その実態については誤解されていることも多いようです。

 この本は、創氏改名政策の実態を明らかにして、その全体像を描きだそうとしたものです。創氏改名については、これまで「同化」の側面ばかりが強調されてきましたが、この本では、以下の三つの点が初めて論じられており、大きな特色となっています。(1)「差異化」の側面の重要性、(2)女性にとっての創氏改名の意味、(3)創氏改名がのこしたもの。

 1910年から1945年に及ぶ35年間の植民地支配とは何だったのか。その本質を考えるための格好の一冊です。

(新書編集部 平田賢一)

  ■著者からのメッセージ
 本書は、近年の研究や新たに閲覧が可能となった資料にもとづいて、創氏改名の全体像を描こうとするものである。一般には、「朝鮮人の名前を日本風に変えさせる」政策として理解されているが、実は創氏改名にはさまざまな側面があった。名前の変化の裏には、朝鮮の家族制度に対する日本当局の政策が隠されていた。また、創氏改名をめぐっては、朝鮮総督府、日本「内地」の政治家、朝鮮人それぞれの内部に、異なった認識・立場が表われていた。それは植民地支配に対する認識の違いを示すものであった。

 本書では、これらの問題とともに創氏改名の実態を明らかにすることに重点を置くことにしたい。とりわけ、実態としての創氏の強制がどのようになされたか、批判的言動に対する取締りがどのようなものであったかなどの問題を、当時の朝鮮総督府など日本当局側資料にもとづいて明らかにしたいと考えている。創氏改名の法的仕組みがかなり複雑だったため、それを説明すれば創氏改名が理解できるかのように考えられているが、法的仕組みを説明するだけでは実態を理解することにはならない。法令の運用がいかなる雰囲気と状況のなかで、どのようになされたかを明らかにしなければ、創氏改名の全体像は見えてこないからである。

 また、本書では、創氏改名実施後の問題についても検討する。日本の支配末期と、日本敗戦・朝鮮解放の後、朝鮮人の名前がどのように扱われたかを知ることは、創氏改名の問題を理解するうえで欠かせないことだからである。

(本書「はじめに」より)

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こうした問題は、本人たちが多くを語っても、日本人は耳が痛いので、あまり聞こうとしないという事情があり、出版社も困るだろう。ここ30年の右傾化と、最近特に強い反中国感情は、出版社の判断をも鈍らせるだろう。韓国については、韓流ブームもあり、すこしはいいのだと思うが、しかし、痛いところには触れないままで、商売をしているように思われる。

私自身は、韓国の名前を持つ知人が、途中で日本風の名前に替えた場面を一度経験している。それまで韓国名で通していたのだが、何かの事情があって、日本語名にしたとのことで、詳しくは聞かなかった。しかし、アイデンティティの悩みは深かったようで、それは人間の心のとても柔らかい部分であると思う。名前が変わっても、それで商売がうまく行けば問題ないと、割り切れる人もいるし、いつまでも割り切れずに悩む人もいるようだ。

現代女性も、結婚によって、姓が変わってしまうのを嫌がる人たちもいる。朝鮮半島の人たちは、それどころではないクライシスだったと思う。現代でも、帰化の問題や選挙権の問題はあり、貧困や生活保護のことも言われたりする。簡単ではないようだ。