摂食障害と自己コントロールとストレス防衛

1.摂食障害の一部は明らかに脳の食欲中枢の誤作動である。

2.摂食障害の一部は心理学的メカニズムを考えさせる。

3.ダイエットから始まる拒食症とリバウンドの過食症、そして意図的な嘔吐は、自己コントロールの挑戦と敗北の記録である。

4.ダイエットをして体重を自由にコントロールできたときの快感は大きい。

5.しかし体重が減少すれば、それを押しとどめようとする本能が拮抗して働くのであって、いつまでも体重を好きなようにコントロールできるわけではない。

6.身体の許容する範囲内に目標体重があるならそこで安定する。

7.目標体重を身体が許容しないなら、自己コントロールは必ず敗北する。

8.節食とリバウンドの過食は、まるで躁とうつの波である。

9.自己コントロールの課題は強迫性障害の領域に近接している。

10.過食はストレス防御行動として合理的である。これから始まる危機的事態に対して備えるにはまず脂肪の蓄積である。

11.原始時代には適応的で会った行動が現代では不適応である。そのようなパターンのひとつである。たとえばパニック障害がそうである。古い適応パターンが現代に出現してしまう。

11-1.例えていえば、脳血管障害のとき、下行性運動路が障害されれば、膝蓋腱反射が過剰に出現する。そのようなものとして、拒食と過食は、ある。

12.なぜ古い行動パターンが出現するかといえば、新しい行動パターンがうまく働かないからである。

13.脳の行動パターンとしては、拒食と過食はかなり古いパターンであるから、それが「露出」して、作働しているということは、その上位の行動パターンが停止しているということである。

14.治療は、上位行動パターンの再学習である。

15.走るのは原始的楽しみであるが、アキレス腱が切れるまで走るのは、上位中枢のコントロールがなくなっている。

16.カロリーコントロールで節食するとき、それは上位中枢が食欲中枢をコントロールしていると一見見えるが、それは上位中枢の働きで節食しているのではなく、上位中枢の機能停止により、節食しているのである。

17.交感神経と副交感神経が自動的に交互に交代しながら調節している。

18.食欲調節は、血糖値と、胃壁の張りと、味覚・嗅覚からの情報と、上位からの抑制・促進の成分がある。

19.空腹中枢を物理的に刺激し続けたり、満腹中枢を破壊したりすれば、食べ続けるサルが出現する。

20.食欲中枢には、空腹中枢と満腹中枢がある。
血糖値低下→空腹中枢が刺激される→食べる
血糖値上昇→満腹中枢が刺激される→食べるのをやめる

血糖の他にも脂肪酸、ドーパミン、セロトニンなどいろいろな要素が関係する。

21.ダイエットする人に考えて欲しいのは、「食べなかったからやせた」のは、一時的なことである。長期的には、「体質」の問題である。「体質改善」を指定ない限り、いつかは、その人なりの本来の体重になってしまう。

22.本来でない体重でいるのはストレスである。長続きはしない。

23.
本来の体重を決めるのは、食べる量もその要因であるが、新陳代謝、脂肪細胞の量、消費カロリー、などが関係している。自然のままに放っておけば、その人なりの自然な体重が決まる。その体質を改善するには、まず基礎代謝を変えること、脂肪細胞の量を変えること、が大切。食事量と運動量はコントロールできるようでいながら、実は、空腹中枢や満腹中枢、運動の快感、マニックな心性、強迫的な心性、などに影響されている。

24.食事量とカロリー消費量を指定して守らせるだけで、体質を改善してやらないのは、拷問ともいえるし、無駄だともいえる。

25.メタボ対策の大半は、無理を押し付けていて、挫折体験を押し付けているだけである。

26.他人が何を言いたいのか分からないとき、その人が精神的に破綻しているのではないかと思ってみるのも無駄ではない。

27.うつの場合には、食欲は減少するが、消費カロリーも減少することが多い。結果として太ることもある。食欲が減退していままでどおり仕事をしているなら、やせることが多い。
抗うつ剤を使うと最初に食欲が増す。活動亢進は後のことになるので、一時的には太ることがある。

28.躁状態のときには、食事も忘れて活動に没頭し、結果としてやせることがある。

29.甲状腺機能亢進症の場合、食欲も亢進するが、活動はそれ以上に亢進するため、やせることが多い。

30.甲状腺機能低下症の場合、活動低下で太ることもあり、むくみが出ることもあり、結局、太る。

31.自然な空腹感を無理にコントロールすること。それはコントロール癖のある人にとっては魅力的な課題である。得られるものは、魅力的な体型だけではなく、自分の克己心に対する自信である。「食べたいという原始的で卑しい欲求を」抑制して、「手に入れたい体型を手に入れる」のだから、二重に自信になる。しかしその状態は原理的に長続きしない。基礎代謝と細胞構成から結論される「その人なりの最適体重」があるのであって、すべての努力にもかかわらず、長い時間の後にはその体重に帰着する。

32.老化したとき、悪性腫瘍のときも、やせる。

33.テレビに映る人はやせる必要がある。テレビに映るときは、実物よりも太って見えるとのことで、それを計算すると、やせる必要がある。そこで事務所から「絞るように」と命令が出る。まじめで几帳面な性格の人で、目標体重が自然体重の範囲を超えている場合、深刻な敗北を経験することになる。

34.自分の内側にビルトインされたもっとも基本的なメカニズムに意志の力によって挑むのだから、もともと無理というものだ。

35.たとえば性的な力に意志の力で挑むのと同じである。フロイトの言うように、それは病気の元になる。

36.広く言えば、自分の自然な身体の拒否である。人工人体の試みである。しかしうまく行くはずがない。理由があってその体重が自然体重なのである。

37.自然の性を拒否するいくつかのやり方。禁欲を試みて敗北する人たち。たとえば宗教者の場合。またたとえば、性同一性障害者の場合。肉体改造を試みる。最近ではタイでオペをするそうだ。食べる/食べないは自然を拒否するのだから、結局そこまでつながってしまう。