梅毒について

中国での梅毒の抑制がうまくいっていないという話でなかなか大変だと思った。
アメリカでは階層によって極端に梅毒の発生が異なり、
白人で少なくアフリカ系黒人で多いというデータがあったと思う。
エイズとの関係もあって、性的習慣ともずいぶん関係するようだ。

日本ではずいぶん抑制されてきたように思うが最近はピルが広く使われていたり
複数人のセックスパートナーがいたりで性感染症は少なくないし、
年数が経った後の脳梅毒・神経梅毒についても注意が喚起されている。
アーガイル・ロバートソン瞳孔の話など。

梅毒はずいぶんと研究の歴史のある病気で興味深い。
脳梅毒とか神経梅毒という表現は下品な言い方で、普通は進行麻痺という。
英語ではGeneral ParesisとかGeneral Paresis of the insane という。

精神病のひとつの典型的なモデルとして興味深いいろいろな側面がある。

分かりやすい話でいうと
コロンブスがアメリカからヨーロッパ大陸に持ち帰ってから、
急性反応としての局所の炎症、全身の痛みなどは記述されているが、
脳に対する影響が確認されるまで、それから300年を要している。
1490年から300年。精神病というものに対しての認識がこの間に進歩したのだという説もあるが、
もっと興味深いのは、この期間、進行麻痺は存在しなかったのではないかという説である。

初めて梅毒に感染してからトレポネーマ・パリドゥムが脳に影響を与えるまで
5~20年かかるといわれていて、昔は早く死んでしまっただろうし、
老人になってから進行麻痺の症状が出ても結局老化で片付けられていたのだろうという説もある。

ある医者は、天然痘の瘢痕がある人は進行麻痺にならないと報告している。
そして進行麻痺にかかった患者には種痘の瘢痕があったと報告している。
連想するのはマラリアで、梅毒のマラリア療法は精神科医で最初のノーベル医学賞を受賞しているのだが、
マラリアで高熱を出しているうちに梅毒が治ってしまうというものだ。
高熱でいえば、マラリアでなくても天然痘でもいいはずだ。
問題の300年間、ヨーロッパは伝染病の時代だった。マラリア、天然痘、チフス、回帰熱。
要するにほぼ全員が伝染病にかかり高熱で苦しむ時代だったので
進行麻痺にはならなかった。
伝染病が克服されたあとで進行麻痺が発病するようになったということらしい。

マラリアが流行する国では進行麻痺は発生していないというのが大きな手がかりだった。
同じようなことが統合失調症でもないかといろいろと調べられている。
結核との関係とかてんかんとの関係とか調べられたものの手がかりになっていない。

英語の文献では野口英世の業績が省略されていたりする。
野口は進行麻痺の脳の中に病原体であるトレポネーマ・パリドゥムが存在することを実際に確認した。

特効薬であるサルバルサンを見つけたエーリッヒは606回目のトライで成功し、606と名付けた。