君により思ひならひぬ世の中のひとはこれをや恋といふらむ 在原業平

在原業平 は 現代風に読むと
ざいはらごうへい だ
剛平 という人がいて ごうへい と読んでいるが、
在原業平と通じるのかと想像するとおもしろい。
○田剛太郎というのもいるが
全然へなちょこなので名は体を現さない。

さて、わたしにはこの歌はまことに凡庸と思われる。
従って紹介するにあたり、和歌だけでは不足で、
在原業平が「作者とされている」ことまでふくめて紹介する必要がある。
そこまで含めての、楽しみなのだ。

大意は、
あなたのおかげでやっとわかった、世の中で恋というものはこのことだったのか
というもので、
たとえば
一度か二度会った後に送るには絶好の、普遍的な、歌である。
でも、とてつもなく凡庸でしょう?
栃木の田舎でメールをやりとりしているみたいだわ。

その歌を、「恋の名人」在原業平が歌い、
「いままでの数多くの恋はみな恋の名に値しない程度のものであった、
いま味わっているこの『苦しさ』こそ真実の恋なのだ」
となるのだから、
まあ、たまらない味わいである。

つまらない歌が、
在原業平の名前を出しただけで急に生き生きとしたものになり、
自分でもこんど使ってみようかという気分にさえ、なる。
これはどうしたことだろう。

やはり人間のこころの深くに
ドンファンへの肯定感情があるのだろうか。
恋多き男はますます洗練されてゆく感じがする。
恋多き女は単に愛を知らないだけのような気がする。

ドンファンで思い出すのは、
中条きよし という人である。
昔、「うそ」などという歌で都会風演歌のスターになった。
彼が語るには、銀座に行った時のもてかたは半端ではなかった。
多分、そうだろう。
そして出費も半端ではなかった。当然、そうだろう。
歌には他に「うすなさけ」「理由(わけ)」があり、
新・必殺仕事人』などのドラマでも甘いマスクで登場した。
女は望み次第であった、だろうと思う。

そんな男が「うそ」を歌う。

折れたたばこの吸い殻で
あなたの嘘が分かるのよ

爪も染めずにいてくれと
女がほろりと来るような
悲しいうそがつける人

半年あまりの恋なのに
エプロン姿がよく似合う
やさしいうそがうまい人
(うろ覚え)

山口洋子作詞である。

まあ、こんな人がいて、
当時のこと、銀座で飲んで、高輪のいつものホテルでひと休み、
そのときにふと、

「お前に恋しているのが
苦しいよ
恋が苦しいなんて
はじめてなんだ」

くらいはリップサービスして、
そんなものは「うそ」なんだと女は知っていても、
おなさらに燃えないではいられないのである。
そしてお互いに術を尽くすことになり、
高輪の朝はけだるく、ミラーマンも好きだったあの短いエスカレーターを、
待つか階段を上るか、腰の重さと相談するのである。

そして
飲み屋の経営者だった中条きよしを
プロデュースした人と
作詞家で作家、飲み屋のママ、山口洋子氏を思うのである。
業平も中条も山口も、中条をプロデュースした人も、そして業平をプロデュースした人も、いい腕をしていると思うのだ。