化石はじっとしていない

女たちのいろいろな思い出は
私の心の層の中で化石の層のように時間の順に古くまた新しく存在しているのだと思ってきた

しかし最近はそうでもないと感じている
古くて小さな思い出が最上部にぽっかり浮き上がっていたり、
時間的には遠く離れた二つの出来事が近い部分でつながっていたり。
年をとるごとに記憶は改変されるようだ。
新しい意味づけが与えられる。

まったく無駄に生きてきた人生とも言える人生だが
このようにして記憶の各層にある様々な思い出のエレメントがたくさんある人生は
これから先の脳の中での思いがけない出会いの楽しみがある。

足を伸ばして有栖川公園の池の畔で座っているとき、突然浮かびあがる過去。
そしてそのときのその人の肌の滑らかさ
そのような事をパズルのように、あるいは短歌の言葉のように並べながら、老人は時を過ごす。