工務店の妻の告白

ハゲタカっていう番組があったけど、
別に外資じゃなっくても、
うちはハゲタカに襲われたようなもんだわ。

夫が工務店をやってましてね、
昔からの店なんで、駅前の結構いいところに土地があったんですよ。
夫が急に病気になって、店の方は休業状態で、
そうすると職員さんに給料も出せないし、
税金だとかいろいろとかかるわけだし、
私だとよく分からないし、
経理の担当者とか税理士さんだとかそんな人の言うことを聞いていたわけです。
その結果がね、まあ、みんななくしちゃったというか、
ハゲタカに山分けにされたようなもんで。
お得意さんもいくつかに分解されて、もうそれっきりで。
夫が急に倒れたことの結果としてね、仕方ないとも思います。
夫はそんなことを予想して準備するようなタイプではなかったし、
何より敵を作ってしまうような人だったから、
こんなことになってやっぱり、いろんな人がいるんだなあって、
私なんか知ったような次第で。
夫は大変な世界で生きてきたんだといまさら思っていて、
わたしならもう小さく生きていけばいいんで、
何も、そんな人たち相手に戦い抜くような気力もないんですけどね。
こんな風にして話をする機会ができるとそれはもう、
世の中ってこんなものかとか、
人情も何もないものなのかとか、
そんなまあ世間の皆さんから見れば甘ったれたことでしょうね、
世間知らずのことをすこし言ったりしたくなります。
夫は世間に対しての向き合い方がやはりきつかったんでしょう、
タイプとしては。
結果はしっぺ返しみたいなものです。
いままで何も知らないで生きてこられた私は幸せだったと思います。
おかげさまで。
だから、もういいんです、そこの割り切りはできているんです。
お金なんかあの世に持っていけるわけではないし。
人を恨んでこの先行き続けるわけにも行かないんで、
恨みよりもまあ、自分なりにしっかり生きることが大切なんだと思います。

従業員の人たちね、誰のおかげで今日までやってこられたかというのが、
夫の側からの言い分ですけれど、
従業員の人たちにすれば、私たちが我慢してきたから、
店の方もここまでこられたのだと、そんな言い方もあるようなんで、
なんかね、もういいです。
立場が違えばこんなものかと勉強させられたわけです。

春でしょう。この桜だって、もう何度も見られるわけでもないし。
今年の花はありがたいですよ。
もうしみじみと。