偉大な短歌遺産

年を経て、すこしは趣味が深まるかとも思うのだが、
秋の紅葉を見て、思い出す歌は、やはり同じものだ。
一向に深まらない。

風吹けば落つるもみじ葉 水きよみ 散らぬ影さへ底に見えつつ (凡河内躬恒 おおしこうちのみつね 古今集)

大意
風が吹いて紅葉が散る。池水が澄んでいるので、一方では池の底にある葉の像があり、他方ではまだ枝にある葉が池に映った像がある。この両者が重なり合って見える。

多分、写真やビデオが使える時代なら、こんな歌は詠んでいないだろう。
最近の写真は、携帯フォトでも充分に美しい。
シャッターチャンスのほうが重要だ。

しかし、この一種のもどかしさの中に、
人間の脳の秘密があるとも思える。

この歌の思想性のなさが好ましい。
仏教的でもなく、人生を嘆くでもなく、
ただ単に、池に沈んだ葉っぱと池の面に映る葉っぱとあって、
きれいだよというのである。

この境地がわたしには偉大に思える。