旅館の女将という仕事

あるドキュメンタリーで、旅館の女将の仕事を紹介していた。
その北陸の旅館では旅館の評価ランキングで第一位を十何年も続けて獲得していた。
それは現在の女将の力量に負うところが大きい。
しかし世代交代の時期でもあり、若女将がデビューすることとなり、
カメラが密着したという設定である。

評価第一位を続けなければならない重圧を感じつつ、
どう仕事をしてゆくか。
それはそれでいい話で、何も文句はない。
ビジュアルにも見栄えがする。
仕事にも興味を持ち、共感する人も多いだろうから、
テレビの仕事としてはいい。
しかし私が感じたのは別のことだ。

その旅館が、全国一位を続けてきたのは立派なことだが、
そのようにがんばればやれるということが分かったわけで、
何もそれ以上がんばる必要はないのではないか?

もっと別の方向で力を発揮してみようという気になってもよいのではないか?
例えば、財産もたんまりあることだし、それを豪華に浪費してみることだって、
とてもいいことだと思ったのである。
よりどりみどりの掛け軸だって、売り払えば、かなりのお金になる。
そのお金で、本当に好きなことにチャレンジしてみたらどうだろう。
本当にやりたいことが女将業だとして、それは先代や先々代が極めてしまっているではないか。

当時、その意見に賛成してくれた人はいなかった。
全員が、世の中そんなに甘いものではない、との断定だった。

いまは世の中の人の判断がよく分かる。
そのような気がする。

偶然にも手にしている幸運を
軽々に手放してはいけないのだ。

人生がどんなにこわれやすいものか、知る必要があった。