秘密基地

その頃私の生活はその部屋での活動が全部だった。
食事とフロの時には帰るものの、
それ以外は、仕事も睡眠もテレビの視聴も読書もコンピュータに向かっての作業も、もすべてその部屋で行った。
その部屋には私のすべてがあり、
必要な機能はすべて揃っていた。
本もあり、書類に囲まれ、かなりの雑貨も展覧していた。
電化製品がたくさんあった。すきまなく並べられていた。
ある人はその様子を見て、
「ここが秘密基地」と形容した。
その通りで、他人には分からない秩序が厳然と支配していた。
その場所で私の仕事の能力は最大限に開花した。

いますべてが終わって、
何だったのだろうと思う。
最大の効率はあった、
しかし逆に言えば、それだけのことだった。
それが限界だった。
最大といっても、それっぽっちだったのである。
その仕事に満足だったかと言われて、
不満はなく、充足感もあり、報われてもいた、かなり満足だった。
しかしいまになって、
もう一度秘密基地を建設する気力があるかといわれれば、
多分、ないと感じている。
なぜだろう。
それはひとつの季節としては素晴らしいものだった。
しかしそれだけだ。
わたしは次の季節を生きたいのだった。
繰り返しを望まない。

作るとすれば、かなり違った秘密基地を作りたい。
目的も性能のかなり異なったものを作りたい。

大学受験の勉強を終えて、大学に入学した瞬間のような気持ちだろうか。
いま、フリーハンドで未来を描くことができる。
その時に、なにもわざわざ昨日までの習慣に固執することはないだろう。
ひとつの成功であったが、それがすべてではない。
世間的に言えば、勿体ないことではある。
しかしわたしは自分の人生のほうが勿体ないのだ。
人生の時間をゆっくりと熟成するために、
新しい秘密基地を作ろう。

目的も効果も違った秘密基地を作ろう。
生きるということの、別の局面を切り開こう。

いま私が不満を感じているのは、
私の脳を覚醒させる読書空間がまだ見つけられないでいることだ。
環境の中に何かが欠けているのではないかと思っている。
少しずつ研究していこうと思う。

しかしこんな状況も嫌いではないのだ。
新しい環境にどのように対処するか、
それは私の遺伝子が活発に動く局面でもあるのだ。

新しい環境の中で私の遺伝子と脳はどのような働きを見せるのか、
そのことを楽しみにしているのである。