心の問題を相談する件数は倍増

うつと向き合う、兆候に迅速対応 大分県高齢者福祉課長・白川さん
記事:毎日新聞社
提供:毎日新聞社
【2008年3月5日】
うつと向き合う:県高齢者福祉課長・白川さん/下 兆候に迅速対応 /大分
 ◇経験者でワーキングチーム
 社会保険庁出向時のうつもおおむね良くなった白川泰之さん(36)=現県高齢者福祉課長=は05年夏、厚生労働省に人事課長補佐として戻った。そこでは、この病気を「本人の気持ちの問題」と考えるムードが支配的。だが、かつてと違い、不慣れな仕事に就いた職員や新人ばかりの病気ではなくなっていた。管理職にも苦しんでいる人がいる。メンタルヘルス対策といえば健康相談室がある程度で、十分とは言い難かった。
 「省内全体で対策を考えるには、経験者の自分が最適任ではないか」。決断は早かった。
 同じ経験を持つ3人、健康相談室の保健師とワーキングチームを組み、うつ経験者4人を「相談員」とし、不安を抱える職員と直接会って話をした。毎月1日の「心と体の健康を考える日」には、省内一斉メールで各10項目の「セルフチェックシート」と「フォローシート」を送信。けん怠感、コミュニケーション不足、マイナス思考などの危険信号がないか、自分や周りの人が判断する仕組みを作った。兆候があればすぐに白川さんら相談員が対応。悪化しないうちに精神科医につなぐ。
 結果、心の問題を相談する件数は倍増。「みんなの意識が変わった。早期なら話をするだけで快癒することもある。少なくとも私のように長期離脱することはなく、通院だけなら職場としても痛手にならない」
 併せて管理業務を始める課長補佐級へのメンタルヘルス研修を必須化させた。病気が悪化して休む場合も、本人は自責の念にかられる。「職場が快く接してあげれば軽減され、結果的にプラスになる」との狙いからだ。研修では、良かれと思って強引に飲みに誘うことや、「やる気をみせろ」「頑張れ」などの叱咤(しった)激励は厳禁であることを説明。症状には個人差があり、最初は精神面でなく肉体面に出るケースや、大仕事を終えた後など緊張感が抜けた後に一気に悪化するケースなど、この病の複雑なメカニズムも解説する。
 白川さんが大分へ出向した現在も、これらのシステムは省内で機能しているという。
 白川さんは言う。「日本の失業率は4%と比較的低いのに、自殺率は失業率10%の国並み。息苦しいんだなと思う。おおらかな世の中にするべく、一石を投じることが必要だった。それは厚労省だけでなく、どの組織でも同じだと思う」【梅山崇】