抗うつ薬と自殺願望

抗うつ薬と自殺願望

副作用に留意 少量から服用

 うつ病に使う抗うつ薬を服用すると、10、20歳代の若者を中心に、自殺したいという衝動を引き起こすことがある、と指摘されている。薬との因果関係ははっきりしていないものの、専門家は「副作用に留意は必要だが、うつ病を治療しないことは危険。適切に服用することが大切」と話している。

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 うつ病は、気分が落ち込む抑うつなどの症状が表れる病気で、「死にたい」という考えが浮かぶこともある。こうした症状を改善するのが抗うつ薬だが、その薬でかえって自殺願望が起きるとは、どういうことなのか。

 問題になったのは、1988年に米国で「SSRI」(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)という抗うつ薬が登場したのがきっかけだった。

 SSRIは、従来の抗うつ薬に比べ、のどの渇きなどの副作用が少なく、急速に普及した。だが、米国で90年、「SSRIを服用中に強い自殺願望が起きた例があった」との報告があり、「SSRIの服用により自殺した」などとする訴訟も相次いだ。

 英政府は2004年、「臨床試験データでは、SSRIの服用で自殺願望などを起こす危険が少し高まることは否定できない」との見解を示した。米食品医薬品局(FDA)も今年5月、「65歳以上では、抗うつ薬で自殺願望などを起こす危険が低下するが、18~24歳ではこうした危険が高まる」と警告した。

 国内でも昨年、厚生労働省が抗うつ薬メーカーに「18歳未満では、自殺願望を引き起こすことがある」との注意を薬の説明文書に明記するよう求めた。

 うつ病は、脳内の神経細胞の間で信号をやりとりし、感情や思考をつかさどる神経伝達物質のバランスが崩れることが原因と考えられている。抗うつ薬は、神経伝達物質のやりとりをスムーズにし、活力を高める作用がある。だが、自殺願望がある場合、薬で気力が高まるなどすると、実際に行為に及ぶ危険もある。

 杏林大保健学部教授(精神保健学)の田島治さんは「SSRIを服用して衝動的な行動を起こすことは、まれにある。特に若者は脳が発達途上で、衝動を抑える働きが弱いのではないか」と指摘する。

 こうした恐れがあるため、適切な服薬が大切だ。田島さんは、〈1〉服用は少量から始める〈2〉ゆっくり増量し、不安感や焦燥感が増した場合、できるなら前の量に戻して医師に連絡する〈3〉効果が十分な量になったら、それを維持する――の3点を挙げる。

 服用中に注意すべき症状をイラストにまとめた。最初の数日間は、特に注意が必要だが、1か月を過ぎると副作用の頻度は減る。服用して、イライラしたり落ち着かなくなったりしても、薬が効かないと思って増量しない。症状が良くなり、薬を減量する時も、数か月かけてゆっくり行う。

 SSRIは、国内で使用される抗うつ薬の4割程度を占めるとされている。患者によっては治療に欠かせず、うつ状態や不安感などの症状が改善される場合は多い。

 抗うつ薬を服用した患者の誰もが自殺衝動を起こすわけではなく、自己判断による服薬中止は、症状を悪化させることにもつながる。田島さんは「SSRIなどの抗うつ薬は、人によって効果や副作用の出方が異なる。医師と相談し、慎重に服用することが大切だ」と話している。

 抗うつ薬の情報

 独立行政法人「医薬品医療機器総合機構」は、薬の種類ごとに、服用の仕方などの情報をホームページに載せている。アドレスは、http://www.info.pmda.go.jp/downfiles/ph/whatsnew/guideCompanylist/companyframe.html