テロより怖い民営化 

ルポ 貧困大国アメリカ 堤 未果(岩波新書 新赤版1112)

教育、医療、防災、そして戦争まで……
 極端な「民営化」の果てにあるものは?

 高い乳児死亡率。一日一食食べるのがやっとの育ち盛りの子どもたち。無保険状態で病気や怪我の恐怖に脅える労働者たち、選択肢を奪われ戦場へと駆り立てられていく若者たち―尋常ならざるペースで進む社会の二極化の足元でいったい何が起きているのか? 人々の苦難の上で暴利をむさぼるグローバル・ビジネスの実相とはいかなるものか。追いやられる側の人々の肉声を通して、その現状に迫る。(写真は本書より)
    
  ■著者からのメッセージ

 「教育」「いのち」「暮らし」という、国が国民に責任を負うべき政府の主要業務が「民営化」され、市場の論理で回されるようになった時、果たしてそれは「国家」と呼べるのか? 私たちには一体この流れに抵抗する術はあるのだろうか? 単にアメリカという国の格差・貧困問題を超えた、日本にとって決して他人事ではないこの流れが、いま海の向こうから警鐘を鳴らしている。……(略)……

 無理や無関心は「変えられないのでは」という恐怖を生み、いつしか無力感となって私たちから力を奪う。だが目を伏せて口をつぐんだ時、私たちは初めて負けるのだ。そして大人が自ら舞台をおりた時が、子どもたちにとっての絶望の始まりになる。

 現状が辛いほど私たちは試される。だが、取材を通じて得た沢山の人との出会いが、私の中にある「民衆の力」を信じる気持ちを強くし、気づかせる。あきらめさえしなければ、次世代に手渡せるものは限りなく貴いということに。

(本文より)
  
   ■目次
 プロローグ
  第1章 貧困が生み出す肥満国民  
  新自由主義登場によって失われたアメリカの中流家庭/なぜ貧困児童に肥満児が多いのか/フードスタンプで暮らす人々/アメリカ国内の飢餓人口
  コラム(1) 間違いだらけの肥満児対策
  第2章 民営化による国内難民と自由化による経済難民  
  人災だったハリケーン・カトリーナ/「民営化」の罠/棄民となった被災者たち/「再建」ではなく「削除」されたニューオーリンズの貧困地域/学校の民営化/「自由競争」が生み出す経済難民たち
  コラム(2) ニューオーリンズの目に見えぬ宝
  第3章 一度の病気で貧困層に転落する人々  
  世界一高い医療費で破産する中間層/日帰り出産する妊婦たち/競争による効率主義に追いつめられる医師たち/破綻していくアメリカの公的医療支援/株式会社化する病院/笑わない看護師たち/急増する医療過誤/急増する無保険者たち
  コラム(3) 不安の「フード・ファディズム」
  第4章 出口をふさがれる若者たち  
  「落ちこぼれゼロ法」という名の裏口徴兵政策/経済的な徴兵制/ノルマに圧迫されるリクルーターたち/見えない高校生勧誘システム「JROTC」/民営化される学資ローン/軍の第二のターゲットはコミュニティ・カレッジの学生/カード地獄に陥る学生たち/学資ローン返済免除プログラム/魅惑のオンライン・ゲーム「アメリカズ・アーミー」/入隊しても貧困から抜け出せない/帰還後にはホームレスに
  コラム(4) 誰がメディアの裏側にいるのか?
  第5章 世界中のワーキングプアが支える「民営化された戦争」  
  「素晴らしいお仕事の話があるんですがね」/「これは戦争ではなく派遣という純粋なビジネスです」/ターゲットは世界中の貧困層/戦争で潤う民間戦争請負会社/見えない「傭兵」/一元化される個人情報と国民監視体制/国民身分証法/州兵としてイラク戦争を支えた日本人/「これは戦争だ」という実感
  コラム(5) テロより怖い民営化
    エピローグ
  あとがき

医療、メディケア、無保険者、民間戦争請負会社、戦争ではなく派遣という純粋なビジネス、貧困層は軍が勧誘、肥満、食糧。すべてのキーワード、新自由主義。
テロより怖い民営化、その通り。