分かりやすい説明

分かり易い説明にも秘密がある


1.自分がよく分かっていないと、噛み砕いて説明できない。
 本を一冊全部説明しても、有効ではない。
 ポイントをいかにして抽出するかだが、
 どこが相手にとってのポイントなのか、分かっていないといけない。
 何十人も相手なら、本を書くみたいな感じで、
 パワーポイントで説明すればいいのだけれど、
 目の前の人を納得させるには、別の方法が有効である。

2.具体的に。
 もっと軽くというのではなく、3キロで、とか。
 そしてさらに、なぜ3キロか、ここの筋肉の緊張が最大になるように、とか説明をつけて。

3.相手に合わせて。
 相手の理解の程度にあわせる。
 相手の興味の領域に合わせて、たとえ話を使う。

4.簡潔に。そして繰り返し。
 一言で説明できるワンフレーズまで凝縮して、それを反復する。

5.図、表、マンガ、イラスト、が有効。
 言葉で理解できる人もいるが、そうでない人も多い。

そんなことだろう。
もともと現象が複雑ならば、
説明も複雑にならざるを得ないのだが、
脳は、現実を抽象化するし単純化する。

脳が脳を理解できるのかというパラドックスがあるが、
ある程度抽象化し、ある程度単純化しているから、
できることだ。

相手がどの程度の単純化、抽象化、複雑化、に耐えられるものか、
見極めをつけて、説明する。
場合に応じて、説明のレベルを変化させる。

抽象化と単純化は内容が違う。

単純化は、たとえば、複雑な曲線を直線で一次近似するようなことだ。
また、関係要素が10くらいあるのに、敢えて単純化して、
2つの要素の相関だけに着目する。

抽象化はそれと違って、
一段高いレベルからの関係考察になる。
相手の脳が、抽象と具体の観念操作をうまくできるなら、
抽象的な説明も、よい。
たとえば、数式に置き換えて説明してしまうこと。

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さて、心理学をどのようにやさしく説明するかといえば、
やはり、身近で具体的な、個人の体験からの導入だろう。

心理現象を言葉や図で表わすことは、誰にとっても、容易ではない。
しかし、何かで表現しないことには、
何も伝えられない。
まず体験を表現することの手助けをすることだ。

そうそう、そんな感じなんです、と体験と表現が一致すれば、
まず第一段階クリアーである。

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さて、次に、その体験のメカニズムの説明。
これは簡単ではない。
しかし、専門家なら大体こんな風に説明しているという、
標準的なセットはあるから、それでもいい。

そして、対策の説明、これも、簡単ではない。
工夫していくしかない。
しかしこれも、標準化がだいぶ進んでいて、
それを説明しながら、あなたの場合には、ここを少しだけ修正する、
といったようにするだけでいい場合も多い。

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全体として、説得できるかできないか、
オールマイティなテクニックがあるわけではない。
でも、おおむねはうまく行く。
相手も理解したい、されたいと思っているから。

しかし、中には、他人とのコミュニケーションをゆがめて受け取る、
認知の歪みを持つ人がいて、
その人に、他の人と同じように説明していると、
歪みがあると診断はできるが、
歪みを訂正する方向での治療的なかかわりは、
拒絶されることになってしまう。
ここが難問である。

しかしその場合も、その人の認知の癖にあわせて、
ポイントを簡潔に、繰り返し伝えることに変わりはない。

分かり易さの背景には、人間としての信頼感があることも、大切な要素だ。