ゲゼル理論

どこかで採録した文章。ハードディスクに残っていたので紹介。

電子マネーとゲゼル理論を組み合わせて、合理的な解決ができないか、思考実験すること。

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以前、「価値が減っていく貨幣(中立貨幣、又は減価貨幣)」という概念を読んだ事があります。

 「ゲゼル理論」と言った方がピンと来る人もいるかもしれません。
 この理論で私が最初に面白いと思ったのは、「どうしてお金を借りたら利子を払わなければならないのか?」ということを問いかけていた点です。
 
 さぁ、どうしてお金を借りたら利子を払わなければならないのでしょう?
 
 「当たり前だろ、借りたんだから。」
 
 というのが一般的な回答だと思います。しかし、それでは根本的な理由の説明にはなっていません。
 ゲゼル理論は、それに対して回答を与えてくれます。
 
 なぜ、利子を払わなければならないのか。
 
 逆の視点から考えて見ましょう。
 例えばスイカ農園を営む人が、「今年は取れすぎちゃったからどうぞ」とスイカをくれたとします。
 スイカの出荷量は決まっていて、それ以上出荷しても値崩れが起きる為、毎年必要以上のスイカは要らないのです。
 そして普通、その余ったスイカをくれるときに対価を要求する人はいません(あったとしても激安です)。
 
 なぜ、対価を要求しないのか?
 
 その人がいい人だから?
 
 そうではありません。作りすぎたスイカは、保存しておけないからなのです。
 もしスイカを永久に保存しておける(そして場所も取らない)とすれば、おそらく来年あるかもしれない不作の為に保存しておく事でしょう。
 それがビジネスというものです。
 それができないからこそ、スイカ農園の経営者は気前良くスイカをくれるのです。
 
 対価は要求しませんが、彼の周囲には非常に良好な人間関係が生まれるでしょう。
 腐ってなくなるより、そっちの方が得なのです。
 
 腐ってなくなる・・・つまり、時間が経つにつれて価値がなくなっていくのがこの世のモノの本質です。

 ところが、お金は違います。
 お金はどれだけ持っていてもさほど場所を取らない上に、どれだけ持っていても消滅することはありません。
 例えお金が余っていたとしても、わざわざ人にあげたりはしないのです。
 
 するとどうなるか?
 
 余っているお金を人に貸す時に、対価を要求するようになるのです。
 それが「利子」なのです。
 
 「もともとは時間が経つにつれて価値が減っていくモノの対価としての“お金”が、時間が経っても価値が減らないのはおかしい」というのが、ゲゼル理論の出発点です。
 
 「べつにいいじゃん」、と言う人もいるでしょう。
 「お金の価値が減らないのは、誰かがそう決めたからでしょ? その結果として利子があるんなら、別にいいんじゃないの?」
 
 でもまあ、もう少し聞いてください。
 
 例えば、1万円の服を買ったとします。
 服は10年後にはボロボロになっていますが、1万円は1万円のままです。服の存在は有限ですが、お金の存在は無限なのです。
 
 言うなれば「モノを売る」とは、「有限を無限に変える」という行為なのです。そこに無理があるのは明白です。
 
 「いや、それはおかしい。あなたはその服をいつでも好きな時に10年間着れる権利を1万円で買ったのだ。だから、10年後に服が無くなるとしても、それで釣り合いが取れているはずだ」
 
 ところが、それは「服を着たい人」という側から見た側面でしかありません。
 もしあなたが、その服を10年間まったく着るつもりが無いとします。同様に、同価値であるはずの1万円も10年間使うつもりが無いとします。
 
 どうでしょう? どちらが欲しいですか?
 誰もが1万円を選ぶでしょう。1万円は10年後でも1万円だからです。しかし、服は3年経てば「残り7年しか着れない服」になり、価値が下がっていきます。

 これを逆手に取って、服を買う時に「敢えて待つ」という方法を取ることもできてしまいます。服を売る側は、持っていると服が古くなっていくので値下げしてでも売るしかありません。ところがお金を持っている側は、いつまで経ってもお金の価値が減らないので、待つことができるのです。
 
 お金とモノは同価値であることが流通の約束事であるはずなのに、お金の方が価値が高いのです。
 これは価格が高い、低いではありません。もっと本質的に、「お金は価値が減らないが、モノは価値が減っていく」という違いなのです。
 このせいで、モノよりお金の方が強くなり、お金を持っている側が、モノを持っている側に対して強い権利を主張できるようになるのです。
 それが金利という形で現れるのです。
 
 「お金だって、自然なインフレで少しずつ価値が下がっていくよ」
 
 という人もいるかもしれません。
 
 しかしそれは、ここで言っている「モノが腐敗していく」ようなものとは意味が違います。
 「モノが腐敗していく」というのは、あくまで自分が所有しているモノについてだけ意味を持ちます。
 将来自分が購入する予定のモノは、新鮮なモノを購入すればよいだけだからです。
 
 しかし、インフレの状態というのは、自分が持ってないお金も、価値が減っていきます。
 お金という存在そのものが価値を失っていくのです。
 つまり、将来自分がもらう予定であるお金まで、価値を失っていくのです。
 お金をモノに置き換えて考えるなら、まるで1年後に収穫する予定の野菜までが腐敗していくようなものです。意味が通りません。インフレが非常に不自然な現象だということが分かります。
 
 インフレによって企業の収益が上がり、給与も上がるという意見もありますが、インフレによって将来もらえるお金の価値が下がるのは明らかですが、給与が上がる保証はどこにもありません。
 
 お金を持っている人はお金をモノに変えてまた戻せば済む話ですが、お金を持ってない人は将来が不安定になるということです。
 
 どっちにせよ今のデフレ日本を見ると、自然的なインフレによってお金の価値が下がっていくという話も眉唾かもしれません。

 さて、モノは価値が減るけどお金は価値が減らないから問題があると書きました。
 インフレによってお金の価値が減るけど、それは不自然で、弊害がある、とも
書きました。
 
 では、どうすればいいのでしょう。
 「モノと同じような仕組みでお金の価値も減ればよい」というのがゲゼル理論の主張です。
 
 インフレによって減るのはお金の「通貨基準」そのものです。基準が変動していく為、将来が予測困難になるのです。基準を変えてしまってはいけません。
 既に述べたように、モノが腐ったりして価値を減らすというのは、そういう価値の減り方とは違います。
 単に、量が減ったり、一部が意味を成さなくなるのです。
 
 お金もそのように価値を減らしていく仕組みを導入しましょう。
 直感的には、手元の1万円札が次の月には9900円に減額されるという仕組みが作れればOKです。
 
 そのような減価貨幣は、お金を持っている人にとっては「早く使わないといけない」という圧力になります。スイカを持っていると腐るので早く売らなければならないのと同じ圧力です。お金がモノと同じ価値を持ち始めるので、モノを持っている人とお金を持っている人がようやく対等に取引できるようになります。
 お金を手元に置いておくより、他の人に使ってもらった方が得(同額返してもらうだけでも得になる)なので、金利は下がるか、もしくはマイナス金利で貸す人も出るでしょう。
 
 そしてこの圧力は、インフレと違ってお金を持っていない人には何の影響も与えません。将来もらえる給与の額は相変わらず同じ額だからです。
 
 ちなみにこの話をすると、「これじゃ、お金を貯蓄しておくことができなくなる。将来が不安定になる。」という人もいるかもしれません。
 しかし、減額されるといっても一気に減る訳ではなく、徐々に減っていくだけです。当面必要な額は手元に置いておけるでしょうし、減り方は一定ですから不安になることもありません。持っている以上にお金が必要になったら、誰かから借りればいいのです。マイナス金利で借りれるかもしれないのですから、必要以上に借金を怖がることもありません。
 
 尚、実際には1万円札が次の月には9900円札になっているというのでは、計算しにくくて仕方ありません。やはり額面は維持しないと、計算もろくにできなくなります。
 そこで、例えば1万円札に、毎月一度100円の切手を貼らないと使えないようにします(あくまで例えば、です)。
 これは実質的にお金が減額されているのと同じ効果を生みます。
 
 実際、このような通貨を導入して大成功を収めた街が海外にあります。
 オーストリアのヴェルグルと言う街です。
 http://www.olccjp.net/wiki/index.php?%A5%F4%A5%A7%A5%EB%A5%B0%A5%EB
 
 残念ながらこの取り組みは国によって禁止されてしまいました。
 日本でも、このような取り組みが行われないかと思っています。
 
 ところで、ゲゼル理論が「地域通貨」と合わせて語られる事が多いようですが、日本で流行っている地域通貨はちっともこの「減価貨幣」の仕組みを取り入れていません。管理がそれなりに大変だから導入が難しいというのもあるのでしょうが、減価貨幣の仕組みなしに導入したところで、誰かが地域通貨を溜め込んでしまい、結局その地域通貨は市場に流通しなくなるでしょう。
 
 だからこそ、国家レベルで減価貨幣を導入すべきなのです。
 
 以上、長くなりましたが、この考えが正しいかどうかは別にして、「なるほど、面白いな」と思って頂ければ紹介した甲斐があります。
 私はこの話を読んで、ようやく今の経済の何がおかしいのか理解できた気がしました。

 だいぶ前に読んだ時は「本質的に正しい気がするが、緩やかなインフレとの違いが分からない」と思った為、ずっと曖昧だったのですが、今回読み直してみて、インフレは緩やかなインフレだろうがなんだろうが不自然な仕組みであり、止めるべきだと理解しました。
 
 今、日本はデフレの時代です。
 だからといってインフレにしたところでダメなのはみなさんお分かりだと思いますが、じゃあどうすればいいんだという答えの一つが、ここにある気がします。

 経済学なんてこれっぽっちも知らない私ですが、ゲゼル理論に惹かれるものがあったので自分なりにいろいろ調べて書いてみました。間違っている箇所などありましたらご指摘頂ければ幸いです。

【参考文献】
 新たな経済/中立貨幣
 http://www3.plala.or.jp/mig/neutral/index.html

 減価する貨幣(PukiWiki)
 http://www.olccjp.net/wiki/index.php?%B8%BA%B2%C1%A4%B9%A4%EB%B2%DF%CA%BE

 シルビオ・ゲゼル 代表作「自然的経済秩序」和訳
 http://www3.plala.or.jp/mig/gesell/nwo-jp.html