海は違った

採録。

*****
「誰が太平洋戦争をはじめたか」 別宮暖朗著

この本は、太平洋戦争がなぜ起こったかの原因を、日本官僚制に求めている。
この問題については、様々なことが言われてきたが、別宮氏の論説は私が今まで読んだり聞いたりしたものの中では説得力がある。この議論をもっと深めればミーゼスの官僚制論の方向に合流するかもしれない。外人が日本について書くとどうしても、日本の帝国主義(=imperialism=天皇主義)、植民地主義を戦争原因として見ようとする安直な議論になるが、これは正確ではない。

また真珠湾攻撃のルーズベルト陰謀説や、開戦通知が遅れたことが問題だとするデマは全くのでたらめであることを証明している。特に開戦通知の遅れについては、”パリ不戦条約で「戦争禁止=先制攻撃禁止」が定められてるため、最後通牒・最後通告・戦争宣言(宣戦布告)などいかなる宣言をしても、先制攻撃による戦争開始はできないこととなっていた。”そうだ。この点は法的にエクスキューズは一切できないのである。
ネタバレだが、誰が戦争をはじめたかは、海軍条約派の三羽烏と呼ばれる米内光政、山本五十六、井上成美ということになるらしい。特に真珠湾攻撃=ハワイ作戦は、山本五十六の罪が重大だ。山本はハワイ作戦が成功すれば米国民は士気阻喪し、ただちに手を挙げ休戦を申し込んでくると見ていた。驚くべきことにハワイ作戦は、海軍条約派によって日米戦争回避の手段として立案されたという。

「ヘーゲル、マルクス、ヒトラーと続く官僚寡頭政治=国家社会主義体制の主張にはドイツ国民の広汎な支持が集まり、最高度に発達した役人国家=ドイツが出現した。ところが日本には、常に有力な自由主義者が存在した。ハワイ作戦とは自由主義者=海軍条約派による国家社会主義者=陸軍統制派への最終的な問題提起=妥協案であり、重大な失敗であった。自由より統制が優れていると信じる官僚が優勢になり、ドイツ国家社会主義の影響が最大限に強まったときに太平洋戦争が発生したのである。」と結論している。
しかし、ここで自由主義者という言葉を用いるのが適切とは思えない。陸軍の国家社会主義に対立していたから海軍は自由主義だとはいえないと思うが、イメージは分かる。

昭和天皇の言葉のとおり、「海は違った」のである。

*****
山本五十六はその後も人気が高い人のようだ。ここでは主犯の一人とされている。