桜はうら悲し

桜が咲く頃はうら悲しい
これは万葉の頃からの日本人の伝統の遺伝子である

花に酔うように思うのは
それ以前に生物として春に酔っているのだ

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他の民族の文学はどうなのだろう

千里鶯啼いて緑紅に映ず
と学校で習った

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この漢字の形が目に心地よい
意味よし
音よし
形よし
日本語に翻訳してなお心地よい
これも遺伝子のせいだろう

春眠 暁を覚えず
ともいい

春宵一刻 値千金
ともいう

結局こうした言葉に育てられ
同時に閉じ込められている

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その春には私は上野の精養軒で
ブルーファンタジーというソーダ水を飲んだ
暇があり
未来があった

いま暇もなく未来もない

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寒い冬があるから
春は悲しくうれしい

死ぬ瞬間はこんな感じかもしれない
突然の春のように
あるいは予想していた春のように
悲しくうれしいのかもしれない

今日、空は晴れ渡り青かった
桜の花びらのまぶしかったこと

宙に舞う
重さのない雫