労働者と貴族

労働者と貴族なんて
今時まさかねえと思うでしょうがね
大げさな言い方だな
でもそんな言い方が好きな人たちなんでね

でもひとことだけ
わたしは確かに労働者階級の出身でこのままずっと労働者で行くでしょう
貧しさに慣れてしまった男です
あなた方にとっては貯金や株や不動産の利息分も働けない情けない男でしょう
ワンカップ大関が似合うわけだ
しかしそんな男と結婚を許可したのはあなた方ではないか
あなた方はいったい何を望んだのか
急にブランデーが似合うわけもないだろう
ワインでもないだろう
自分たちの勘違いをわたしのせいにしないでほしい

何があなた方には気に入らないのか
わたしは粗野で野蛮だ
教養などあるはずもない
はじめから分かっていたことではないか
あなたがたは自分たちは高貴だとずっと思っていたではないか
わたしを中国の貴族だとでも思ったか

義母の言葉
「あなたは財産目当だったんでしょう、白状なさい」
このひとことがすべてを壊した

あなた方の財産目録など見たことも聞いたこともない

そしてその言葉は
いまも娘を壊し続けている
息子を壊し続けている

命があるならしばらく眺めているがいい
自分の言った言葉の意味を味わうがいい

まったく今の世の中にこんなことがあるものか
四谷怪談のお岩でもあるまいし