白夜の登場人物で、非常に特異な性格の、通称・黒蜘蛛・タランチュラがいる。
たとえば、自国の上司からの命令があり、
核弾頭搭載のミサイルを購入すべく行動する。
値段の交渉をしたあと、「核物理学者を殺せ」と言われる。
黒蜘蛛は依頼通りに核物理学者を狙うのだけれど、
核物理学者は自分の愛する女・アナスターシヤの父なのである。
このように命を狙われることになった理由としては、
核物理学者の行動も問題があったに違いないが、
それにしても黒蜘蛛の行動は奇異である。
核弾道付きのミサイルを「買いに行く」ことに、
普通ならかなり悩むはずである。
ところがさっさと行っている。
愛する女の父を殺せといわれればかなり悩んで、
多分思いとどまり、引退したいと言い、
しかし「おまえは知りすぎた」などと言われ、
今度は命を狙われる立場になるような成り行きであるが、
それもない。
話の前段で、この人間がこのようにこころが壊れるに至る理由は説明されている。
しかしそれにしても、自分の心が壊れているならそれでもいいのだが、
その結果、他人に大幅に迷惑をかけるようなことは、
控えてもらいたいと思うのだ。
品川の街を歩いていて思うのだが、
やはりそうはいかない。
人に迷惑をかけるくらいの人がのし上がるのだと、
思わざるを得ない。
のし上がり損ねたサラリーマンはそのようにして、
世の中をすねて眺めている。