大江健三郎「話して考える」と「書いて考える」5

○小説の中で、時間の構造が崩れている。無構造になっている。
●書き手は時間の構造を崩すのだし、そのことによって、読み手は、はっきりと新しい認識に至るのだ。
●崩して並べて比較可能なものにしている。


○死すべき存在としての人間全体への、せつない感情を受けとめる
●物理的時間軸に乗っている限りは、人間は死すべきものだ。複数の時間軸を生きることより、その限界を打ち破ることができる。
●意識の限界に縛られる必要はない。


○小説が表現している多層的な「時」
●その前提には、人間が段の生活の中で、「多層的な時」を感じ、使っているということなのだろう。
物理的な時間軸の他に、心理的な時間軸はあり、時に混乱を呈しながら、その混乱は、かえって豊かな認識や感情をもたらしてくれるのだろう。
●このあたりは、難しい。程度が低ければ児戯に類するのであるが、程度が低いとはどういうことかと問題になり、児童文学のファンタジーの中には、非常に高度な達成もあると思われる。結局、そこに何を読みし取るかの問題にもなり、半分は読み手の問題である。


○小説の「時」めぐる仕組み
○いつまでも真夜中の庭園に出ての甘美な経験を続けるわけにはゆかない
●現実との折り合いをどのあたりでつけようかということだ。折り合いがつけばそれでよいのだ。
別の時間、別の現実。
●ひとつの現実にへばり付いていた方が現実を生きるには容易である。山月記の例。