大庭みな子『寂兮寥兮』(かたちもなく)

大庭みな子『寂兮寥兮』(かたちもなく)は、きちんと読んだことはないものの、有名で、
不思議なものがあるなとは認識していた。
今回読んでみて、自分の感受性の射程外にあることが理解できた。
それだけだった。

ところどころキラキラする部分はあり、
それは描写というよりは、 高次の思想内容の、文学的表現というべきもののようだ。

人間の意識のあり方と同じように、
時間のあり方の枠組がとてもゆるくなっていて、
心の中の出来事同士は因果関係で結合されているのではなく、
むしろ緩やかな連想で結合されていて、
そのような結合点をいくつも作りながら物語は編み上げられているようだ。

しかしまた感受性の向きが異なっていることは確かなようで、
私の中で何かが発火するという事態には至らない。
いくつかの連想をもたらしたことは確かで、それは言葉の力である。