こつこつと人生の仕事を積み上げる、
そんな生き方に私は憧れていました。
中村元先生が、パーリ語から日本語に仏典を翻訳したように、です。
大学生の頃、図書館でよく見かけた女子学生が、
フランス語のテキストと向き合っているうちに、
何年も過ごし、次第に字が細かくて、ページ数の多い書物と
取り組むようになっていたのでした。
使っている辞書も、だんだんと分厚いものに変わっていった。
その人の、持続する力に、私は、時間が経つごとに圧倒されたのでした。
一つのことにこつこつと取り組む、
それは実に尊いことだと、身にしみて思い知らされた。
しかし自分では見習うことをしなかった。
私の特性であり、いい面でもあるが、決定的に悪い面でもある。
この一事、と思い定めて、悔いなし、そのような決意がわたしには欠けている。
そんな決意は、嘘だろうと、思ってしまう。
生きているのだから、興味も移る、
世界も移ろう、私としてはこの世界を漂うだけで充分だ、
そのように思ってしまう。
これは一種の言い訳なのだと知っている。
一つのことに打ち込んできた人は、
社会から評価される。
それは大切なことなのだ。
人生の態度を改めるのに、遅すぎることはない。
何か一つのことにこつこつと打ち込みたい。
ただそのことを思い念じている。