IT屋のアイディア形成法

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引き続きこの人のアイディア。なるほど。

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誰でもサラリーマンから独立して会社を作る場合、なにかひとつ自分の「ウリ」がないといけません。それもできれば、他人に一発で説明できるようなキャッチフレーズの形になっていると最高です。

僕の場合はそれが「プログラムが書ける企画屋」でした。

残念ながら僕はプログラマとしては一流になることはできませんでしたが、企画職に専念するようになってから、いくつかヒットを出すことができるようになりました。滅多に参加しませんが、いわゆる”企画コンペ”で負けた事はありません。

そういうわけで僕にとってアイデアをひねり出すというのは日常的なことなのですが、企画屋の部分に注目されると、単なるアイデアではなくて「画期的なアイデア」というものを求められる、期待される、という立場になってしまいます。

今週は、週の最初からずっといろいろと「画期的な」アイデアを考える必要性に迫られて、あれこれ工夫することになりました。さすがに月に一度くらいなら「画期的な」アイデアを思いつく事もありますが、一日ひとつの「画期的」アイデアを考えつくのは相当難しい。

再び自分が困った時のために、今回「やはりこうするしかないよな」という鉄則というか、教訓を並べておきます。

リラックスせよ
音楽をかけろ
普段行かないところへ行け
人を集めて美味いものを食え
一気にアイデアをまとめよ

これ、順番があります。
僕は上から順番にやります。

■第一段階 リラックスせよ

まずはリラックスです。
できるだけ裸足、できればゴロ寝できるような環境を探してください。
お金に余裕があるならシティホテルを借りて昼間から一人でゴロゴロしてください。

とても空しくなります。
お金に余裕がなかったら、朝日を見にドライブしたり、海を見に行ったり、露天風呂で全裸になったり、とにかくリラックスして自分を解放してください。
心のデトックス、というか、アイデアの神が降りてくるための準備を行うのです。
そのために、まずリラックスしましょう。

都内のリラックススポットとしては、大江戸温泉やラクーアなどのスパリゾート。お台場公園などの海の見えるスポット、横浜ベイブリッジやレインボーブリッジや海ほたるなどの海に囲まれたスポットがお勧めです。ある意味、水口さんが砂漠に行くのと似ています。

お腹が空いたり、眠かったり、イライラしていたりしたら絶対に良いアイデアは出てきません。
あらゆる欲望を満たし、「いつ死んでも悔いはない」というくらいにリラックスするのが良いと思います。

■第二段階 音楽をかけろ

十分リラックスしたら、その状態でなにか音楽を聞いてください。最初はクラシックで良いと思います。モーツァルトやドヴォルザークなどがいいでしょう。

しかもなるべく管弦楽がいいと思います。

だんだん頭が起きて来たら、ピアノを使ったものを聞いても構いません。

この段階でギターやジャズピアノ、テクノみたいなのはやめたほうが無難です。

好みの問題もあると思いますが、いきなり激しい音楽を聞くと、突然脳がもとの状態に戻ってしまい、リラックスした意味がなくなりそうです。

管弦楽の奏でる納豆のように尾を引くなめらかな旋律とともに、自分の意識に今回のテーマをぼんやりと問いかけてみましょう。

だんだんやる気が出てくるはずです。

■第三段階 普段行かないところへ行け

僕は月曜日は大崎ゲートシティの喫茶店、火曜日は東大医学部のカフェテラス、水曜日は東京ドームホテルのバーに行きました。

普段行かないところへ移動すると、今までのものごとを違った視点から見つめることが出来ます。

リラックスするときには広いところへ行きましたが、エンジンがかかってきたら高いところへ行くのが僕は好きです。上記で挙げたほかには、六本木ヒルズ、丸ビル、溜池山王パークタワー、パークハイアット、ロイヤルパークホテルなどです。

ずっとオフィスの机の前に座っていて、思わぬ画期的なアイデアがホイホイでてくるわけはありません。

この段階は単なるイニシエーションです。自分の脳や感情をクリエイティブなモードへと演出していくのです。

まだクラシックでもいいですが、場合によっては激しい音楽を聞いても大丈夫です。

ノートPCを忘れずに。
もちろんただ行くだけではダメです。
テーマを決めて、アイデアをいくつも考えましょう。
このとき、画期的なアイデアを考えようとしてはいけません。

そんな簡単に画期的なアイデアを思いつくなら、みんなやってるはずです。

この段階ではまだ情報を集めたり、自分の中でテーマを咀嚼するのです。
それがどんなに馬鹿げていたり、ありふれていたり、実現不能なものだったりしてもとりあえずは書いてみます。GTDと同じで、アイデアは一度書いてしまうと脳の別のところに記憶されます。

とにかく最初に書くのはものすごく解りきった事です。

クライアント様が居て、その要望を満たさなければならないのであれば先方の要望を自分なりに咀嚼して、3つ程度の項目にまとめます。最終的には

 「要するに、○○を××したいのだ」

という要素まで絞り込みます。これが「ゴール」です。

■ 第四段階 人を集めてうまいものを食え

自分なりに十分な時間と知的資源を使ってアイデアの端緒を掴んだら、次の段階に進むことが出来ます。

次の段階はより重要で、美味いものを食べながら人と話をすることです。
アイデアをぶつけ合う必要があるので、これは社員にしかできないことです。また、秘密の話をするのであれば、会社で食べるか、個室のある店で喋る必要があります。これがブレインストーミングになります。
自分で十分アイデアを練っているので、ブレインストーミングの焦点はブレません。
お酒は飲まない方が望ましいと思いますが、飲みたければどうぞ。脱線しそうになったら誰かが止めないと行けません。

ファシリテーター役の人はみんなの言ってる意見をまとめつつ、ちゃんと方向性がずれないように誘導する必要があります。

食べるものはなるべく美味いものがいいです。
なぜなら、ブレストは長時間やっていると脳が疲れて来て、食べ物を欲するからです。
できるだけ長い時間ダラダラと食べるためには、できるだけ美味いものでないと持続しません。

焼き肉や寿司、すき焼きなど、なるべく解りやすいご馳走がいいと思います。
席もゆったりしたところが良いでしょう。

また、ブレストに呼んだ人たちも、美味いものが食べれるなら喜んで参加するようになります。
ブレストに呼ぶ人たちは、できるだけ本来の業務とかけ離れている人が良いです。
僕は大学生のアルバイトや、総務やデザイナなど、普段企画と直接関係ないことをしている人を集めてブレストをすると一番良いアイデアが産まれるように思います。

このときのルールは、一般のブレストのルールで言われるように「反対意見を出してはダメ」などという狭量なものであってはいけません。

全体主義社会みたいなやり方ではうまいアイデアは浮かばないと思います。

十年ほど前、とある大企業の社内ブレストに呼ばれたときに仰天したのですが、「さあブレスト開始します。では左から順番にアイデアを出してください」という進行で、合計20人もの人が順番にアイデア(らしきもの)をひたすら言って、一周する頃には時間がなくなっている、という型式のものがありました。

「みんなに意見を聞かなきゃ」ということなのでしょうが、みんな考えるのが面倒なので「○○さんと同じで」とか「○○さんの意見に同意します」とか、無難なことしか言わなくなって全く時間の無駄です。たまに意見が出ても、おそろしく平凡なものしかでません。これは、ブレストを開催する人が、企画を自分でよく咀嚼せずにいきなりブレストを開催しているのが原因です。

ブレストの人数は、少な過ぎると意味がなく、多過ぎるとブレストではなくアンケートになってしまいます。
最低5人、最大でも20人にした方が良いでしょう。
ブレストの冒頭で、自分が考えた「平凡・馬鹿げた・実現不能」な企画のリストをかいつまんで説明するだけで、同じ意見が出てくるのは防ぐことが出来ます。

また、アイデアを考えるのに時間制限を設けると実はいいアイデアが出やすくなります。

人は

 「なにか面白いこと言って」

と突然言われても、

 「えっ・・・えっと・・・」

と口ごもってしまう事が殆どです。

しかし

 「10分間、○○に××を組み合わせるとどんな面白いことがおきるか考えよう」

と言うと、一生懸命考えるようになります。

また、10分間というのはひとつの題材について議論するには短すぎる気もするのですが、全員の脳が活性化していれば十分長い時間です。
それに、最初の5分くらいで、いわゆる「ありそうなアイデア」は全部出てしまいます。
そのときふと気が緩みます。

 「さすがにもうないだろう」

ところが、実は本当の目的はこれから5分を過ごさせる事です。
10分間、同じ題材について集中的に考えるのはかなりの重労働です。
一日8時間仕事をしていても、10分間、それまで考えた事もなかったようなことについて考えを集中するというのはとても疲れます。

慣れない参加者は五分くらい経過すると

 「もうアイデアでないから次に行こうよ」

と言われることもあります。
そのときに絶対許してはいけません。

 「ダメだ。このテーマであと5分考えるんだ」

すると、人はヒマなので一所懸命考えるようになります。
「もうダメだ」と思ってから3分くらい経過すると、山を超えて次のアイデアが浮かぶようになります。長時間思考には驚くほどそういう効果があるのです。
この10分考えようという方法は、7人未満なら10分間で雑談ベースで、それ以上なら、ポストイットみたいな紙を配って思いつく端から吐き出してもらうようにします。アイデアを図で描いてもらう方が望ましいです。

この10分のアイデア出しは脳のマラソンといってもいいほど疲れます。

しかし間髪いれずに次の話題に移ります。

やはり最初の数分は解りきった答えしかないようですが、後半5分に驚くほど画期的なアイデアが浮かんできます。
しかし間違えないでください。
画期的なアイデアを考えるのは、参加者の誰かではありません。

それを聞いた貴方なのです。
参加者は、この場合、貴方のブースターでしかありません。

参加者がどんな天才で、素晴らしく画期的なアイデアを提案したところで、企画者の貴方が理解できなかったら全くの無駄です。

逆に言えば、貴方が参加者とのやりとりのなかで画期的なアイデアを思いつかなかったらこのブレストはまるっきりの無駄ということです。

もし万が一無駄に終わってしまったら、全く別のメンバーを集めてもう一度開くしかありません。

しかしそれは本当に最後の手段です。
だから絶対にアイデアをつかみ取るつもりで、みんながお酒を飲んだとしても自分は我慢しましょう。

第五段階 一気にアイデアをまとめよ

さあついに最終段階。

ブレストで掴んだ画期的なアイデア、成功へのヒント、そうしたものが全て集約されたメモが手元にあるはずです。

会社に戻ったら、そのメモを一気にアイデアまでまとめあげます。
もし、一気にまとめあげることができなかったら、一気にまとめあげることができるようになるまで、そのメモをもとに自分で別のアイデアを考えます。

とにかくこれは一気にやらないとダメです。

ブレストの後に飲み会を設定するなど言語道断。
とにかくせっかく活性化した脳を休める事なく、休憩も挟まず、一気にアイデアの形にします。

PCが手元になかったり、マウスなどいろいろな環境が揃っていなかったら、紙とボールペンでもいいので一気にアイデアをまとめてください。

ここが上手く行けばほとんど成功したと言っても過言ではありません。
他人が絶対に思いつかないようなアイデアの完成です。

アイデアをまとめる時の注意点としては、なるべく平凡にまとめるというものがあります。
企画屋の経験が浅い人は、「とにかく斬新なものを」と気負いすぎて、宇宙電波を直接紙に印刷したようなアイデアをまとめてしまうことがありますが、これは間違いです。斬新すぎて理解できる人は本人も含めていないのではないでしょうか。

宇宙的な発想の企画は、あまりに多くの人を不安に陥れるので、仮に作ってしまったとしても、先方には見せない方が無難です。

僕は昔、うっかり見せてしまったことがあります。まあそのときはいくつか企画案をだしてくれ、ということだったので、ダミー企画として笑い飛ばしてもらえましたが、精神的に追いつめられると、そういうものを作ってしまいます。

できるなら企画はひとつかふたつに絞って出すのが無難です。というか、その方が精度が絶対に高い。

斬新なアイデアは、そのまま取り入れても斬新な企画とはなりません。
シリコンにごく僅かな不純物が混じって半導体になるのと同じように、斬新な企画とは、平凡なアイデアにごく少量の斬新なアイデアがまじったものです。
辛さのもとと言われる純粋カプサイシンは、たった一粒で1600万スコーヴィル。これは普通のタバスコの1万倍の辛さです。

斬新なアイデアというのは、この純粋カプサイシンのようなものです。
普通の人には辛すぎて飲めません。

いかにうまく薄く、普通の人でも食べれる味まで、要するに1万倍くらいまで希釈化できるかが企画屋の本当の腕の見せ所なのです。