日本医師会の唐澤祥人会長は9月28日、九州首市医師会連絡協議会で講演し、日医が検討を進める総合診療医(仮称)について「地域医療を担う医師としては、治療者というだけでなく、患者や家族から信頼されながら医療の不確実性や医療の将来像などについても話せるいわば『医療の伝道者』といった立場もあるべきだ」と説明した。また「最先端の医療を担う専門医も大切で、そうした医師に十分な力を発揮してもらうためには、周辺で幅広い分野をカバーできる医師も重要だ」と述べ、総合診療医に対する理解を求めた。
日医が8月に打ち出した認定制度(案)で「地域医療、保健、福祉を担う幅広い能力を有する医師」としていることについては、「総合医や総合診療医という名称は、社会的な背景からどうも認知されない。かかりつけ医という名称も何かはっきりしない。もう少し具体的に、医師の役割を表せるような名称をさらに検討する」と述べた。
また唐澤会長は、国による医療費削減政策の流れの中で、医療機関が非常に疲弊していると説明。損益分岐点も「融資が受けにくくなる90%のラインを超え、診療所でも97-98%になっているところもある。病院ではほとんどが100%になっているようだ」と指摘した。その上で「何か工夫や努力をして、少しでも収支が改善すれば『それは勝ち組だ』などと言われるが、こうした流れの中で勝ち組などいない。みな負け組だ」と述べ、医療費削減の流れを直さなければならないとした。
日医としては、日医総研でまとめたデータを基に医療政策を作成し、実現のための戦略を提言、実践していくと強調。「超高齢化社会でも通用する、そして医療保険制度の機能強化のために、新たな政策を打ち出していきたい」とした。唐澤会長はまた「言葉にすると、何となくなだらかだが、これは日々繰り返し訴えていくことが大事。しつこくやっていく」とも述べた。
総選挙は「後期高齢者制度と年金が争点」 -自民・西島氏
自民党の西島英利参院議員は9月27日、九州首市医師会連絡協議会で講演し、近く予想される衆院の解散・総選挙について「後期高齢者医療制度と年金が大きな争点になる」との見通しを示した。後期高齢者診療料については「登録医の考え方を導入するのは、国民皆保険の根幹であるフリーアクセスを否定することであり、あってはならない」と強調。「仮に登録医制を導入しようとする動きがあれば、これは完全に政治の問題。われわれがしっかり議論しなければならない」と述べた。
西島氏は、後期高齢者医療制度の議論について「診療報酬上の問題と制度上の問題が混在した中で議論されている。区分けして考えなければならない」と指摘した。その上で、後期高齢者診療料については「診療料の議論の前に『登録医』の議論がずっとされてきたので、これが大きな混乱の原因になった」と説明した。「当時は登録医制を導入して、登録した医師を通じてでなければ、医療が受けられないという考え方があったことは事実」としながら、「そういったことが決められれば、フリーアクセスが阻害され、国民皆保険が壊れる」と述べ、政治問題として対応する考えを示した。
一方、制度上の問題としては、現役で働き続け健保組合に加入している人でも、75歳になった途端に自動的に後期高齢者医療制度へ移行する現行制度については見直しを進めていく考えを示した。
また医療安全調査委員会設置法案(仮称)については、患者遺族からの告発により警察がいきなり業務上過失致死容疑で捜査して医師を逮捕するといった事態を回避するための法案だと指摘。医師法21条については「事件や虐待で患者や遺体が搬送された時、警察に届け出るため、刑法134条の守秘義務を解除する法律だ」と説明した。西島氏は、個人情報保護法でも、がんの告知や学会報告の場合に守秘義務を解除していると説明し、「医師法21条で守秘義務を解除しないと、事件や虐待の場合でも警察に届けられない」と述べた。その上で医師法21条の削除を盛り込む民主党案に疑問を示した。
西島氏は、9月に辞任した福田康夫前首相について「冷静沈着な決断をされた」との認識を示した。西島氏は昨年7月の参院選で民主党が大勝して以降、審議拒否や採決の先送りなど民主党による「数の横暴」が始まったと説明。「民主党の言い分は『福田首相は民意を問うてないから、あなたとは話をしない』というものだった」と述べ、民主党の対応を批判した。