「友達地獄」
空気を読む世代のサバイバル
土井隆義
現代の若者を見て、
コミュニケーション能力や規範意識の欠如を見て取り、
教育改革の柱に据える風潮がある。
この本は、若者の行動が時代の社会状況に適応したものであることを主張する。
キーワードは「優しい関係」
互いの対立の回避を最優先課題とする。
対立的をあらわにしない
繊細な気配り。
それが大人の目には人間関係の希薄化と見える。
乗りの悪い空気の読めない人は
優しい関係維持の脅威である
「たとえ孤立しようとも我が道を行く」人間像が昔あった。
個性化教育では「規範を押しつけて管理する」のではなく、
自ら進路を選び取る能力を備えたジャイロスコープ型人間像を掲げる。
個性化教育は、皮肉にも、
自律的人間ではなく、
人間関係に敏感なレーダー型人間を量産した。
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なるほど。
対他配慮の新しい形がこれなりだろう。
対他対立回避を規範とする。
規範意識は乏しい。
それはそれなりに高度に訓練され、
社会を広く見ている結果であろう。
何かが正しいと押しつける原始的な心はない。
他人の能力や成長段階や趣味を尊重する。
それはいいことだし必要なことだ。
国際化するとさらに必要になる。
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しかし内的に充分に成熟した上で、
そのような人同士での、
対立回避社会は、それなりに高度な社会である。
しかし内的成熟の機会を欠いたままで、
対立回避ばかりが戒律となってしまったら、
一体その先どうすればいいのだろう。
内的成熟のためには、やはりどうしても
対立が必要であると思える。
怒鳴り声や涙が必要であると思える。
対人距離がゼロに近くなる瞬間が必要であると思える。
そんな体験がなくては成熟しようがないだろう。
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成熟の機会を逃したままで
友達地獄をさまよう。
しかし
「たとえ孤立しようとも我が道を行く」
ことを成熟だと感じる感性はもうすでにずれているのだろう。
対立回避だけが成熟の指標なのだ。
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夢野 久作に
少女地獄と
瓶詰地獄とあり。