「豊かさ」の誕生 ウィリアム バーンスタイン

「豊かさ」の誕生 ウィリアム バーンスタイン
この本は、以前、アナルコキャピタリズム研究でも紹介されていた本だが、これをこの二-三日で読了した。前から購入して持っていたのだが存在を忘れて本棚に埋もれていた。

非常に面白かった。久しぶりに内容の濃い面白い本を読んだ気がする。

この著者はアメリカの著名な投資家らしいが、これほどの蘊蓄に富み主張の一貫した歴史書を書くというのはただ者ではない。
おそらくこの著者の立場はHayekianであろう。しかしリバタリアンでもオーストリアンでもない。このことは特に矛盾はしないのである。
この本自体がハイエクの後期作品を意識して書かれていることが伺えるし、それを最新のデータ、研究成果に基づいて総括しようとする意図が伺える。

簡単に言えば、この200年の人類の爆発的な豊かさの原因としては4つの原因があるとする。
・私有財産性
・科学的合理主義
・資本市場
・輸送と通信

このうちで、最も重要なのは私有財産性であり、法の支配である。
そして英米の植民地となった国は、私有財産性と法の支配が確立されたためにその後繁栄したが、南米などスペイン植民地となった国では、私有財産性と法の支配が確立されなかったために、スペイン同様に長く繁栄はできなかった。また著者は、現在の貧困な南アフリカ諸国に対しても、先進国ができることは、私有財産性と法の支配の種を蒔くことだけで、後は気長に芽がでるのをまつだけだという。
あと、日本の歴史に対する本書の記述は非常に冷たいものがあるが、これがあちらのインテリの正直な印象なのだろう。

なお、特許などの知的財産制度についても著者は私的財産権の一つとして、その制度的な意味を重視している。ここなどはオーストリアンやリバタリアンには特に異論のあることだろう。
また資本市場として「有限責任制」の登場を重視している。
私の興味ある点を広くカバーしている点では希有な本でもある。

これだけの本が書ける”インテリ”は残念ながら日本には大学人を含めて一人もいないだろう。
興味のある人は是非一読をお勧めする。結構な大著であるが、興味深い蘊蓄と新しい実証的な論考が多く飽きないで一気に読めるだろう。

なお、あまり本筋でないが、この3章の天動説、地動説の話で思ったことを書いておく。
よく言われるように、天動説が地動説になったことで科学的な真実に近づいたというのは、正確な表現ではない。
太陽系を考えた場合、太陽を基準として考えるのが最もシンプルな方程式になるだろうが、
地球中心に座標変換を行えば、数学的には全く等価だ。
もちろん、月を中心に座標変換をしてもよい。
絶対的な軸を想定しないのであれば、どの座標系も等価なのだ。
であるからして、コペルニクスからガリレオーケプラーーニュートンと連なる地動説への転回とは、正確に言えば、太陽系の火星や水星~土星といった惑星が太陽を中心として回っていると考えたほうが分かりやすく、かつ数学的にシンプルだというだけの話である。
もし、これを地球中心の座標系で考えれば、惑星はかなり複雑な動きをし、軌道方程式も複雑になるだけで、これら惑星が地球の周りを動いているとしても全く問題ない。

不思議なのは、数式的にきれいなものがより真実だと思え、全く等価だが数式的に汚いものは間違っていると人間はなぜ判断するのかだ?
これは種族のイドラなのだろうか?

*****
それが本質直感というものでしょう。