それは中学一年生。
わたしは自分は恋愛などに縁がないと信じていた。
太宰治を読んで、堕落した人間には縁がないと決め、
ニーチェを数ページだけ読んで超人がいいと思い、
プラトンに憧れて、自分はプラトンの方向に行きたいと決めていた。
北国では桜は遅い。
新学期が始まってしばらくして、やっと開く。
中学の校庭の桜の木の下で、
君は陽に照らされていた。
わたしはまぶしくて目を細めた。
すぐ近くに君の耳たぶがあり、うなじがあり、
わたしはそこに滑らかな音楽を感じた。
そして一瞬の後に、君は振り返って、わたしを見た。
その強い目の力は、いまもわたしを貫いている。
あの一瞬がいまもわたしに言葉を綴らせる。