生きててよかったと思うんだ。

こんなあたしにもね、
報われる時間はある。
 
昔のお客さんが来て、
懐かしいねって、
言ってくれる。
 
あたしに会いに来る人は、
一番羽振りのいいときか、
破滅したときか、
そんな人が多い。
一生に一度の思い出に、
ぱーっと無意味に使いたいって、
思うらしいの。
 
今日来た人は、
もう自分はあのあと死ぬつもりだったって言うわけ、
で、あたしと会って、
死ぬのはまた今度でもいいやって思ったらしいの。
 
そのときはもう破産してたんだけど、
それから離婚して、親が死んで、また仕事でだまされて、
いいことはなかったらしい話なんだけど、
今日はあたしに合いに来て、
しばらくぶりだったね、
元気そうじゃないかなんていうのよ。
 
元気そうかどうかなんて、
実際、あたしは元気どこじゃなくって、
大変なんだし、
そんなゆるいこと言ってられないの、
でもね、真顔で、命の恩人だ、ありがとうみたいなこと言われて、
もう相手は泣きだしてるわけ。
 
いいような、
悪いような、
くすぐったいような、
大変なことしてるような、
こんなことする仕事じゃないんだけどなとか思うけど、
それなりに、
じんと来るんだ。
やっててよかったなとか。
 
今日の人も言ってたけど、
生きててよかったと思うんだ。