テレビではホームレスは段ボールにくるまって寝るのはいやだといっていた
そうなるともう立ち直れない気がするとのことだ
だから昼は図書館にいて夜は漫画喫茶とかで過ごすという
私はそんなことは考えもしなかった
私は段ボールにくるまりはしなかったが
段ボールの上で寝た
最初は夏だったから事務所の床に寝た
寒くなってきたとき床はあんまりなので
いすを組み合わせてその上に寝た
頭と足と腰の三カ所にいすがあれば眠れた
私は寝相がいいのだ
しかしもっと寒くなって部屋全体を暖房してもやはり寒いので
イトーヨーカドーで一万円の寝具セットを買ってきた
それが一番安くて敷き布団と掛け布団と枕がセットになっていた
花模様の掛け布団カバーがついていた
私を家から追い出したその人は見張りに来て
それを見ていやらしいものを買ったと言った
どこまでも感受性がズレまくりの斜めな人だった
一番安いものとはそういうものなのだ
しかし寝具を使うからにはいすの上では厳しい
床に敷いたのでは寒すぎる
段ボール箱はいくつもあったのでそれを並べてその上で寝ることにした
簡易ベッドができた
クッション効果はゼロだ
それでもいい、家を追い出された私が寝るところはここしかないのだ
段ボール箱の上に寝た感想は
案外寝心地はよかったと思う
そんなことで私の無無駄な人生はすぎていった
段ボールはいやだという失業者の話を聞きながら
段ボールで何年も寝ていた自分の人生が哀れになった
なぜ寝室でベッドで寝てはいけなかったのか
今さらながら理不尽さに喉が強く締め付けられ熱くなった
そんな人生を生きてきた
今さら怖いものなどない
もう一度やれと言うなら今度はもっとうまくやってやる
もっと完璧に段ボール生活を楽しんでやる
私はそういう流儀だ
いつだって間に合わせの人生だ
もともと何もなかったのだから
これからも何もなくても不都合もない
ただこつこつ働くことで人生は成り立つ
昨日まで働いたものに頼ろうとすれば
そこから人生は濁り始める
ゼロにしてまた働き始めるしかないしそれでいい
静かで安全な生き方は私には似合わない
似合えばよかったのだが実際には似合わなかった
段ボールにくるまるには東京は温かくていい
大きな構造物を利用すれば
たとえば地下通路ならば雨も風もない
駅のはじっこでもかまわない
食い物はたくさんあるし
そういえば浮浪者と捨ててあった段ボールの取り合いをしたことがある
私の方が力が強かった