大家族で暮らす女性(主婦)では心疾患リスクが高まる可能性があることが、大阪大学予防環境医学教授の磯博康氏らによって明らかにされた。子どもや祖父母など複数世代が同居する日本人女性では、配偶者のみと暮らす女性に比べて重篤な心疾患と診断される確率が2~3倍高かったという。
医学誌「Heart(心臓)」オンライン版に12月15日掲載された今回の知見(筆頭著者は米ハーバード大学公衆衛生学部・池田愛氏)は、JPHC Study(厚生労働省がん研究班による多目的コホート研究)の一環として、日本人家族メンバー約9万1,000人を14年間追跡調査した結果得られたもの。男性には、同様のリスク増大はみられなかった。試験開始時に癌(がん)や心疾患、脳卒中など重篤な疾患を有する被験者はいなかったが、2004年の終了時には671人が冠動脈疾患(CAD)と診断され、339人が冠動脈性心疾患(CHD)で死亡していた。
磯氏らは「複数世代で生活することで、喫煙や大量飲酒などの有害な習慣が増えるわけではなく(データでは配偶者のみと暮らす女性のほうが喫煙率は高い)、家事全般だけでなく外で働くことも求められ、ストレスが生じることが原因と思われる。フルタイムで働く中年の日本人女性は増加しているが、育児や高齢者の世話など、家事の負担は依然として主に女性の肩にかかっている」と述べている。
米レノックスヒルLenox Hill病院(ニューヨーク)のSuzanne Steinbaum博士は「女性が高学歴になり職場に進出しても、文化的に、家族の世話をするのはやはり女性。米国人も、同じ世帯に複数世代が住む日本のようになる可能性がある。収入を得ながら家族の面倒もみることを要求されるストレスとプレッシャーは非常に大きい。家族に関する既存の概念を変え、役割を見直す必要がある」と述べている。
米ニューヨークプレスビテリアンNew York Presbyterian病院のLori Mosca博士は、今回の研究が小規模であり、社会経済的地位(socioeconomic status)について調整していない点を指摘し、最終結論を出すには注意が必要であるとしながらも、「複数世代で住む女性の心疾患のリスクは現実。スクリーニングではこのリスクファクター(危険因子)の可能性を組み入れて、必要に応じて支援サービスを紹介する必要がある」としている。
[2008年12月11日/HealthDayNews]