2006年11月6日
光トポグラフィを用いて脳活動に伴う脳内の血液量を測定し機器を操作するブレイン・マシン・インタフェースの原理実験に成功
株式会社日立製作所(執行役社長:古川 一夫/以下、日立)は、このたび、光トポグラフィを利用して脳活動に伴う脳内の血液量の変化を測定し、その測定信号を用いて機器を操作する無侵襲*1のブレイン・マシン・インタフェースの原理実験に成功しました。今回の実験では、被験者が暗算や暗唱を行ったときの前頭前野における血液量を測定し、被験者の暗算や暗唱とほぼ連動して小型鉄道模型を駆動、停止できることを確認しました。本成果は、身体を動かして機器を操作するのが困難な方々を支援する、福祉機器向けの新しいマン・マシン・インタフェースや脳機能のリハビリに向けた技術に道を拓くものです。
近年、脳の神経活動を利用して機器を操作する新しいマン・マシン・インタフェース技術の研究が活発に行われるようになってきています。これは、被験者に薬や注射などを投与することなく、無侵襲で脳活動を測定できる「脳機能計測法*2」が発達したことによるもので、測定した脳の活動状態を入力信号として利用し、機器を動かそうという新しい試みです。日立が開発した脳機能計測法「光トポグラフィ*3」は、近赤外光を頭皮上から照射して脳活動に伴う局所的な脳血液量の変化を画像化できる技術で、被験者に計測用の専用キャップをかぶせるだけで脳活動の状態を測定することができます。日立は、この光トポグラフィの原理を用いて、1999年に運動機能を失ったALS*4患者が意思の伝達を行えることを確認し、2005年にはYes/No判定装置製品「心語り」を開発、エクセル・オブ・メカトロニクス株式会社により製品化されました。
日立では、さらにこの技術を発展させて、身体を動かして機器を操作するのが困難な方々を支援する福祉機器向けの新しいマン・マシン・インタフェース技術の確立を目指し、研究を進めてきました。そして、このたび、日立では、光トポグラフィを利用して脳内の血液量の変化を測定し、その測定信号を用いて機器を操作する無侵襲のブレイン・マシン・インタフェースの原理実験に成功しました。これは、光トポグラフィの測定信号を使って、機器を駆動する新方式の開発により可能となったものです。
今回、新たに開発した駆動方式の詳細は以下の通りです。
新開発の駆動方式
1. 今回の実験では、光トポグラフィ装置を使い、前頭前野の複数箇所における血液量を測定しますが、脳を活動させた時の変動パターンを予め測定し、この測定データを利用して機器を駆動させる学習型駆動方式を開発しました。予め測定された変動パターンと類似の測定データが得られた場合に機器を駆動させ、パターンの消失に伴い機器を停止させることが可能になる方式です。
2. 光トポグラフィ装置で測定された信号を、機器を駆動させることが可能な電圧信号に変換する御回路・ソフト技術を開発しました。 一般に、暗算や暗唱を行った場合、額周辺にある前頭前野で脳血液量が変動することが知られていますが、今回、複数の被験者を対象に、暗算や暗唱を行ったときの前頭前野における血液量を光トポグラフィで測定し、小型の鉄道模型を操作するという実験を行ったところ、以下を確認することができました。
実験で確認した内容
1. 機器の駆動は暗算や暗唱の開始とほぼ連動して行えること、また、被験者が暗算や暗唱を停止した後、個人差はあるものの、機器を減速、停止できることを確認しました。
2. 事前に被験者の変動パターンを測定した後、そのパターンに応じて、機器への入力信号の変換パラメータを調整するというプロセスを導入することで、機器の操作を効果的に行えることを確認しました。
3. 被験者がトレーニングを行うにつれ、機器の駆動や停止を効果的に行えることを確認しました。 今回の成果は、光トポグラフィの原理を利用した無侵襲のブレイン・マシン・インタフェース実現の可能性を示すものであり、身体を動かして機器を操作するのが困難な方々を支援する、福祉機器向けの新しいマン・マシン・インタフェース技術や脳機能のリハビリに向けた基礎研究に道を拓くものです。今後、人に優しい情報機器の開発を目指して、研究を進めていきます。
*1 身体を傷つけず無害なこと。
*2 脳には特定の機能が決まった部位に存在する「機能局在」という特性があり、脳の局所的な部位の活動を計測することで、個々の刺激と脳活動の関係を分析することが可能です。
*3 光トポグラフィで用いる近赤外線は、光子エネルギーが低いため人体に対して、基本的に安全であり、かつ良く透過します。そのため、頭皮上から照射すると、頭皮・頭蓋骨を透過し大脳で反射してきた光を再び頭皮上で検出することが可能です。そして、この近赤外線は血液中に含まれる色素タンパク質であるヘモグロビンに吸収されるため、反射光強度を計測することにより脳内の血液量変化を計測することができます。脳は、活動した部位で血液量が増加することが知られていますが、光トポグラフィを用いると、この局所的な脳血液量変化を多点で完全に同時計測でき、脳活動を画像として観察できます。
*4 筋萎縮性側索硬化症(Amyotrophic Lateral Sclerosis)
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つまり、簡単に言えば、筋肉を動かさなくても、考えただけで外部機械のスイッチのオン・オフができそうだという話題。多分できるようになりますね。でも、確実性がどの程度であるか、問題。また、不安定な動作をしたとして、動作の結果の責任の所在をどのように確定するかが問題。