海を見る 波を聴く 潮風を嗅ぐ

海岸を歩いた。
砂浜を、前に歩いた人の足跡を辿りつつ、
途中で犬の足跡と交わる様子を眺めつつ、歩いた。

波音を聞いた。
こんなにも立体的。
耳はくすぐられている。

潮風を嗅いだ。
いいものだと思いながら、
一方では、これは実は海草の腐った匂いなのだ、
完全にきれいな海では、
「潮の匂い」はしないのだ
という説明を思い出していた。
そんな説明を思い出しつつ、
私の鼻は懐かしさと慰めに満たされて、
喜んでいた。

波をじっと見ていて、思い出した。
波は重なり合い、とてつもなく速く走るのだと書いた昔を思い出した。

波は砂浜に押し寄せて、
最後まで生き、消えて、一部は沖に向かって返してゆくものだ。
寄せては返す波と言われる。
見つめていると、
返す波と、新しく寄せる波が、ぶつかり合うことがある。
返す山と寄せる山が重なり合い、高い山を作る。

返す波と寄せる波は完全に平行ではないことが多いので、
山が加算される様子は、山が砂浜に平行に走るように見える。
返す山と寄せる山が平行に近くなればなるほど、
加算されて合成された山は、速くなる。
完全に平行になれば、無限大の速さになるはずである。
我々の目は無限大の速さを実感することができない。
なぜなら、光線が眼球に届くまで、距離÷光速 の時間が必要だからである?

まあ、そんなことを書いていたものだ。
いままた、波が走る。
光よりも速い現象がここにあるはずなのだ……