よくある言い方であるが
自分は組織の歯車でしかない
仕事の全体をつかんでいない
そこに不全感があるのだ
たとえばタンス職人のように
自分だけで一から十まで成し遂げる仕事がしたい
まことにそうだと思う
そして自分だけで成し遂げる独立自営の仕事が
経済主体としてどんなに弱くて危険なものか
思い知るがいい
人間の身体を作っている細胞には
肝細胞といわず脳神経細胞といわず
どれにも同じだけのDNAが備わっていて
いざとなればそれ自体で生きていけるのではないかと言われている
それなのに肝細胞は専ら肝細胞としてのみ働いている
この社会におけるあなた、あるいは組織の中のあなたと同じである
肝細胞もときどき脳神経細胞になってみたいし
またときどきは単細胞生物になってみたいのだ
生物は環境が厳しくなると多細胞生物になって
個々の細胞が機能分化してしまう
そのことによって生き残りの可能性を高める
同じ生物が豊かな環境に置かれると単細胞生物として生きることが分かっている
不思議なものだ
つまり環境が充分に豊かであれば
勝手気ままに単細胞で生きたいものなのだろう
自分が肝細胞になることは不本意ではあるが
生きるために犠牲を耐えて我慢しているのである
比喩であるが
あなたも充分に恵まれた環境に置かれれば
多分単細胞生物として独立自営の生活を営めるだろうといえる
しかし世界は厳しい
あなたが独立自営で利益を出せるなら
組織力のある集団はその百倍も能率よく稼ぐだろう
あなたの仕事を根こそぎ奪うだろう
南の島の楽園を考えてみよう
食料はたくさんある
ただである
特に独り占めする必要もない
水も空気もただである
働く必要もない
そんな環境では
組織を作ろうという気分にはならないだろう