何という稠密なパズルだろう。
膨大な引用、さまざまな概念装置、
それらをパズルのように組み立てて見せる。
ただ圧倒される。
パスカル、フッサール、デリダ、ローレンツ、スタロバンスキー、
ルソー、ソンターグ、フーコー、ピアジェ、
その他、私にはなじみのない人多数。
一体何というアクロバットだろうか。
中に小川未明の登場する一節があった。
たしか親戚の古い家で、小川未明の子供向けの話を集めた
大きな固い本があって、夏の間、読んだ覚えがある。
同じ家に、夏目漱石の坊っちゃんがあったことも覚えている。
全集版の大きな本で、オレンジ色のような表紙ではなかったか。
古い文字遣いだったような気がする。
柄谷のありがたい労作をしばらく眺めて、
心に浮かんだことはそんなことだった。
中村光夫も懐かしく思われた。
読んだことはないけれど、ある年の神田の古本屋で、
中村光夫の「ある女」というタイトルの本が大量に売られていたことを覚えている。