人生は分からない

その町をはじめて訪れたとき、7月くらい、夏の暑い日だった。
暑さに辟易し、もう二度と来ないだろうと思った。
駅前の小さな不動産屋の広告を見たりしていた。
人生は分からない。
結局そこに赴任し、10年の月日を過ごした。
思っても見なかったような展開が次々に待っていた。

人間を悪人と善人に分けるのも浅薄であるが、
不思議なくらい、人々はくっきりと両極端だった。

最後の日の夜は、駅ビルの中の小さなカフェで夕食代わりを食べた。
こんな場所でこの街を眺めたことはなかったなと思いつつ。

そしてひとつの季節が終わった。
欠落の痛みはまだ重い。

しかしまた、人生を複線化して、マルチプルに生きたいわたしにとっては、
必然だったような気もする。