伊藤和彦(北海道大学名誉教授)の講演会より一部
食品を取り巻く状況
食品は次の三機能の内、少なくとも一つ以上の機能を備えている必要がある。「三機能とは栄養機能(栄養価が高い)、官能機能(美味しい)、体調調節機能(体調を良好に保つ)」である。私たちは栄養機能と官能機能の両機能を備えた食品を良い食品と判断してきた。もちろん、日常的に口にする食品であるから安全であることが大前提となる。
消費者に食品の安全性に関する情報を伝える上で、消費期限を明示することは画期的なことであるが、一方では食品の良否を自らの感覚で判断せずに食品製造者からの情報(この場合は消費期限)のみで判断する消費者が増加している。消費期限を僅かに超えた、または消費期限内の食品であっても人間の感覚によってチェックする必要があると思う。人間の感覚は五感(味覚、視覚、臭覚、触覚、聴覚)として表せるが、食品の品質の良否についてこれら五感を総合的に同時に働かせて瞬時に判断することが可能であり、各種測定機器に比較して高い精度を持つ。しかし、五感も使わなければ精度は当然低下するであろう。
現在、国内には多くの食品が満ちあふれ、国産品と輸入品を合わせると季節に関係なく希望する食材を入手し、豊かな食卓を飾ることができている。輸入する食品が増加すれば、食料の自給率が低下することは避けられない。最近の統計によると日本のカロリーベースによる自給率は40%まで低下しており、特に穀物自給率は24%であり、国際流通穀物の13%を輸入している。食肉自給率は53%であり、食肉貿易の21%を輸入している。今後とも日本の食料需要は海外からの輸入なしには対応できない。
食料の安定供給の観点から考えると自給率を向上させることは重要な事項である。しかし、自給率の向上は一朝一夕にはできない。現在の食事の内容を維持しつつ自給率を上げることには国土の面積・気候上の制約等がある。
一方、大量の食品が廃棄されている現実がある。家庭からの廃棄物の90%は生ごみであるがその中の50%は食べ残しや消費期限を僅かに超えた未開封の加工食品も含まれている。レストラン等の外食店からの食べ残しを加えると、年間に金額で11兆円になるとの報告がある。これに廃棄物処理費を加えると巨額な費用となる。
遺伝子組み換え作物に対する評価は確定していない。「組み換えられた遺伝子を食べると…」のような乱暴な言葉が流れている中、マスコミからの情報(その多くは消費者の不安を掻き立てている)に消費者の不安は増すばかりである。「遺伝子組み換え○○を使用していません」なる文章を堂々と掲げて自社製品の宣伝を行っている企業があるが、論旨からは遺伝子組み換え作物は有害であると断定していることになる。この企業は将来にわたって宣伝文章の内容に対して責任を負うだけの自信があるのであろうか?過日他人の畑に立ち入り遺伝子組み換え作物を刈り取った事件があった。隣国で叫ばれたスローガン「愛国無罪」を思い出した。
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そうなのか。