ブータンに魅せられて

ブータンに魅せられて 今枝由郎著 (岩波新書 新赤版1120)

 よりよく生きる、とは? より人間的である、とは

 ブータンは、ヒマラヤ山脈のほぼ東端の南斜面に位置する小王国。人口約55万、面積は九州をひとまわり大きくしたくらい(4万6000平方キロメートル)で、緯度は沖縄とおなじくらいに位置します。17世紀前半に、チベット系大乗仏教の一派(カギュ派)の化身高僧によって国として統一されてから、これを国教とし、その歴代化身系譜を聖俗両面での最高権威者・権力者とする、いわば「仏権」政治体制がつづいてきました。1907年からは世襲王制となりましたが、仏教が国教であることには変わりなく、現在でも国民の大半は信心深い仏教徒です。その意味でブータンはチベット仏教最後の砦とも言えます。地政学的には中国、インドという二つの大国にはさまれていますが、標高差の大きい豊かな森林と肥沃な土地で自給自足できる、アジアの中でも恵まれた国です。近年、「国民総生産」にかわる「国民総幸福」を提唱する国として、そのユニークな環境政策や近代化政策が、グローバル化によって生ずるさまざまな問題への批判的文脈のなかで紹介されることも多くなっています。

 著者は、日本で大学までを過ごし、留学したフランスで研究者として生きることを決めて帰化しました。研究の過程で出会ったブータンに、1981年から10年間、ブータン国立図書館顧問として滞在しました。その後もほぼ毎年ブータンを訪れています。著者がブータンと関わった期間は、奇しくも2006年末に退位した第4代ブータン国王の治世とぴったり重なります。そしてこの第4代ブータン国王こそ、「国民総幸福」という考え方を世界に問うことで、国際社会に中におけるブータンの存在感をたしかなものとした人なのです。ブータン社会とはどのようなものなのでしょうか。またそこに生きる人々は、どのように暮らしているのでしょうか。

 ブータンも決してユートピアではない、と著者は言います。しかし、この仏教の息づく社会に生きる人々の精神の文化にひとたび触れると、「よりよく生きる、とは?」「より人間的である、とは?」と繰り返し考えざるを得ない、とも言います。

 日本、フランス、ブータンという3つの大きく異なる社会を今も行き来し、その3つの異なる文化を自らのうちに内在させた著者のまなざしを通して、できるだけ多くの方にブータンを経験する時間をもっていただけたらと願っています。  (新書編集部 太田順子)

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チベット問題が拡大されている現在、ブータンを知ることにも意味がある。

個人的には、アメリカ西海岸の気候温暖地域に住んで、
時々ブータンを観光に訪れ、進歩した文明は間違いだったと、
リチャード・ギアのようにつぶやき、
「国民総幸福」はいいことだと納得し、
リフレッシュしてまたアメリカに帰り、静かに暮らしたいものだと思う。

ブータンの人には申し訳ないが、ブータンはブータンのままでいて欲しいと
エゴ丸出しで思うのだった。