「悩み」の正体 香山リカ著 (新赤版1068)
いまどきの「悩み」と向き合い、ココロを解きほぐす
精神科医としての臨床経験を活かし、現代人の心の問題をはじめ、様々な社会問題を鋭く考察しつづけている香山リカさんの新刊です。香山さんは、一昨年、岩波新書より『いまどきの「常識」』を刊行しました。「反戦・平和は野暮」「お金は万能」など、日本社会に広がりつつある、新たな「常識」を取り上げ、それらが人々に受け入れられつつある背景、その問題性などを鋭く考察しました。同書は、出版されるや大きな反響を呼び、現在も多くの読者に読まれています。その香山さんが、今回は、現代人の「悩み」に向き合います。
ここ数年、「自己責任」という言葉がよく使われるようになっています。誰かが、困難に直面していても、それはすべてその人のせい。こうした認識のもと、「だから、困っている人を助ける必要はない」という「強者の論理」が導かれることとなります。こうした考えは、現代社会の動きを象徴しているのでしょう。現実に目を向ければ、福祉は次々と削られ、不安定雇用の増大によって、働いてもまともに生活できない人も目だってきています。そして、弱い立場の人間が、政府など権力者に楯突くと、中傷や個人攻撃などバッシングの嵐……。
そうした「自己責任」の考えが広がる中で、ストレスや息苦しさ、精神的な苦痛を抱えている人も少なくありません。しかし、その辛さは、本当に自分自身のせいなのでしょうか、と香山さんは問いかけます。すなわち、その「悩み」は本当に自己責任なのか、と。自分自身が変われば、その「悩み」は解消されるのか、と。
本書では、「場の空気が読めなかったらどうしよう」「働いても生活できない」「まじめに生きてきて損をした」など、現代人ならではの「悩み」を30ほど取り上げ、その「悩み」が生じる背景や原因を探ります。そうすることで、そうした「悩み」が、けっして「自己責任」などではないことが明らかになることでしょう。疲れた心を解きほぐすためにも、まずは「悩み」の正体を見極めることからはじめてみては、いかがでしょうか。
(新書編集部 田中宏幸)
■目次
まえがき
1 嫌われるのがこわい――人間関係編
場の空気を読めなかったらどうしよう
他人の失敗が許せない
若い人の要領のよさについていけない
暴力にどう対処したらよいか
家族どうしなのに気持ちが通じない
2 無駄が許せない――仕事・経済編
忙しく働いていないと不安だ
働いても生活できない
効率がすべてなのか
やりがいを感じられない
地方にいても展望がない
3 このままで幸せなのだろうか――恋愛・結婚・子育て編
恋愛したいけれど出会いがない
結婚できないかもしれない
子どもがいないと不幸せなのか
親になったが自信がない
結婚は失敗だったのだろうか
4 老いたくない、きれいでいたい――身体・健康編
自分の顔、からだを変えたい
健康のために何かしないと不安だ
老いたくない、病気になりたくない
病気になっても医者に診てもらえない
現代の医療に信頼がもてない
5 いつも不安が消えない――こころ編
自信が持てない
前向きな気持ちになれない
気分に浮き沈みがある
「ありがとう」が息苦しい
自分は誰にも大切にされていない
6 まじめに生きてきたのに――社会・人生編
まじめに生きて損をした
「便利な世の中」についていけない
自分は何の役にも立っていない
おとなになりたくない
この先、楽しいことはない
あとがき
■岩波新書にはこんな本もあります
精神病 笠原嘉著 新赤版581
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「場の空気が読めなかったらどうしよう」
について言えば、
著者は充分に場の空気を読んで、支配さえしているようだ。
香山リカの正体。
決して偏った極端なことを言わない堅実さは編集者に安心感を与えるし、
売れ行きも維持できるだろう。
学校の図書館にも買ってもらえるし、
親も薦めるかもしれない。
90歳を超えた日野原重明先生の「生き方上手」の域にすでに達している。
リカちゃん、お見事!
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精神病 笠原嘉著 これは私の参考にする教科書。いい本です。