社会復帰へ支え合い 摂食障害と向き合う/3
記事:毎日新聞社 提供:毎日新聞社【2008年4月24日】
摂食障害と向き合う:/3 社会復帰へ支え合い
平日の昼下がり。キッチンで、作業着姿の女性5人が和やかに言葉を交わしながら手を動かしている。作っているのはパウンドケーキ。教会や地域のバザーなどで販売するための商品だ。慣れた手つきで薄力粉をふるいにかけ、手早く材料を混ぜ合わせていく。
横浜市金沢区にある「ミモザ」は全国的にも珍しい摂食障害者のための地域作業所だ。同じ病を抱える女性たちに居場所を提供し、社会復帰に向けたリハビリテーションの場として98年に開所した。運営するのは、摂食障害者を支える市民団体「のびの会」(同区)。福富静子代表は「病気が長期化して、再び社会へ出ることに抵抗を感じる人も多い。社会に戻る前のワンステップとなる場が必要」と意義を語る。
摂食障害者には、うつ状態を伴ったり、過食がひどく引きこもりになったり、仕事を始めても長続きしないケースも多い。ミモザでは、生活リズムを整え、物事を継続する力を養ってもらおうと、日替わりでプログラムを設けている。菓子類を作る作業のほか、食行動を直すための食事会、家族関係や体のコンプレックスなど悩み別のミーティングも行う。
ミモザに通って6年目の女性(28)は「以前は食べ物に振り回されていたのに、執着がなくなり、自分も人の役に立てると思えるようになった」とほほ笑む。別の女性(38)も「病気を克服した仲間の姿を見ることで、自分も変われた」と話す。
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のびの会ではもう一つ、画期的な取り組みをしている。同会の嘱託心理療法士、武田綾さんが06年から始めた少人数グループでの認知プログラムだ。「一口食べたら太る」といった摂食障害者特有の物事のとらえ方や認知のゆがみを修正し、行動を変えていくためのノウハウを学ぶ。
食行動の問題に注目し不要な過食を避ける方法を身につける「ビギナーコース」と、再発防止のため自分の感情をコントロールする方法を身につける「ベテランコース」があり、いずれも全10回。食事や対人関係など、日常生活で直面する現実的な問題に焦点を当てる。参加条件は、適正な体重があり、主治医から許可を得ていること。3-4人の固定メンバーで隔週開かれる。
昨年末に実施されたビギナーコースの4回目。武田さんの元に集まった4人の女性が、過去2週間の食事内容やその時の感情、過食や下剤使用の有無などを細かく記した「食事日記」を発表しあった。「食べていないのにやせないからイライラする」「不安がある時に、それを言葉にできないから過食で解消してしまう」–。互いの食事日記に耳を傾けながら、正直な思いを包み隠さず話す。その後、過食しそうになった時の対処法を皆で考えた。
武田さんは「互いを鏡とすることで、より自分が見えてくる。同期の仲間と助け合い、修了生からアドバイスをもらって、縦横のつながりを持てる点も強み」と、グループ療法の意図を話す。
両コースを修了した女性(27)は「今までは食べ吐きすることで自分の問題を見ないようにしていたけど、そんな自分を受け入れ、今できることを積み重ねていこうと思えるようになった」と話した。
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■支援グループの連絡先
★ミモザ 電話045・787・4329(火-土の10-17時)
ホームページ(http://www17.ocn.ne.jp/~mimoza/indexn.html)
★のびの会 電話045・787・0889
(相談は月・水の11-15時。患者家族のためのミーティングや勉強会も定期的に開催)
■各地の主な自助グループ
★NABA(東京都世田谷区)
★かなりあしょっぷ(滋賀、京都、大阪で活動)
http://www.osk.3web.ne.jp/~irabuti/canary/
★ママラボ(大阪府高槻市。摂食障害を持つママ同士のグループ)
http://blog.goo.ne.jp/kimuki211
※いずれも摂食障害者が集まり支え合いながら回復を目指す。