裁判員制度の制定経過

伊東 乾氏による裁判員制度の解説。

 さて、ここから先は噂話として小耳に挟んだお話で、真偽のほどは定かではありません(これ以前の記載は科学的に裏づけの取れる話題を中心にしているので、線を引いておきましょう)。

 司法制度の改革が審議された折、現在のような「裁判員制度」が最初から主張されていたわけではない、これは議事録からも確認ができる事柄です。ここで、<弁護士>出身の中坊公平氏は、司法改革に「陪審員制度」の導入を強力に主張し、かなりな勢いを持った。これも確認が取れます。

 ここから先が風聞ですが、<裁判所>としては、「陪審員制度」の導入だけはどうしても阻みたかった。なぜなら、もし陪審制度が導入されれば、被告人の「有罪・無罪」の決定は裁判官の手を離れ、判事の仕事は国民が「有罪」と認めた者に対して、専門の観点から量刑などを決定する実務だけになってしまう。これは既得権という意味でも、また司法権の独立という意味でも、大いに危ぶむべき状況である、そこで何とかしなければならないと対策が練られた(らしい)。

 また<検事>の側も考えた。日本は起訴されれば有罪率が99%以上という、やや異常な(これは戦前から指摘されているようですが)高率で「検察が勝訴する国」で、敗訴は検察という役所での検事さんの立身出世にも大いに関わる問題である(らしい)。一般市民から成る陪審員の多数決で、無罪率が高くなることは、役所内の個人の成績(~昇進であり昇給であり…)に直結する大問題で、訴訟の勝敗の要を、訳の分からない市民「陪審員」に任せるのは、組織全体を含む自分たちの将来を、市民の票決に託するのにも等しい。ということで何としても「陪審員」だけは阻止しようと思った(らしい)。

 なお、念のため書き添えますが、被告人の有罪無罪を全会一致などの票決で決定するのが「陪審員」制度です。

自走するメディアの影響力

 

 そこで「妥協策」が考えられた。「よろしい、中坊委員の言われるように、市民が審理に参加する制度は作ろう、しかし有罪無罪の決定という判決の核心部を市民に丸投げする『陪審員』制度は性急だ。日本社会や市民の意識は、いまだそこまで成熟していない。裁判官と市民とが合議して判決を下す『参審制』ではどうか…」。

 こんな対案が出されましたが<弁護士>サイドは頑張ります。何人もいる裁判官の中に1人や2人の市民が交ざっても、大した力を発揮することはできない。映画<12人の怒れる男>にもあるように、一定数以上の市民が参加することで、民意が反映されるのだ」と、陪審員の考え方で多くの定員を要求します。

 この結果、裁判官が3人に対して、市民裁判員がその倍の6人もいて、この成員が原則として多数決によって「有罪・無罪」の決定から具体的な量刑まで定めるという、世界に例を見ない独自の「参審制」の一種である「裁判員制度」が成立した…内容的には「参審制」であるが、審理に加わる人数は明らかに欧州などの「参審制」の限度を超えて、英米型の「陪審員」規模の大人数、大所帯の、不可思議な「裁判員」なるもので、両者痛み分け的に時間切れになった…。こんなふうに聞いています。

 つまり現在の「裁判員制度」の具体的な形は、妥協の産物であるということです。この結論自体は間違いないところでしょう。 ところが、この混声所帯が原則として「多数決」によって有罪無罪、さらには量刑などまで決めるという。これは当事者にも予測のつかない未曾有の状態を、妥協と駆け引きによって生み出してしまったことになる。「裁判員制度」は妥協の産物に他ならないというわけです。

 さて、良し悪しはさておき、いったんこんな制度ができてしまうと、今度はおのおのの立場から、自分たちに有利なように、脇を固める努力が血眼になって進められることになります。それが「公判前手続き」をはじめとする、本体の「裁判員制度」以上に刑事法廷を変質させる可能性が高い「裁判員制度周辺の司法制度の改変」であるらしい。

 検察側としては、100%の有罪率を誇りたいのに、不安定要素でしかない市民裁判員が持つ「(無罪になる)リスク」を極力ゼロに抑えたい。裁判官も、従来は自分たちの専権事項だった、独立して存在すべき司法への、別の要素の混入を必ずしも歓迎しない。

 そこで工夫されたのが、初期の証拠提示段階からの「悪人」の印象づけであり、さらに「被害者救済」の観点から、「法曹三者」という刑事司法にかつて存在しなかった「第2の検事」と言うべき、被害者の家族などが尋問や求刑を行える前代未聞の制度を矢継ぎ早に工夫して、なんとか「勝率」(有罪率)を下げない(=組織の既得成績を守り、個人の昇進も妨げない)方向に「周辺制度」の「整備」に夢中になっている…。

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 刑法の團藤重光教授は「裁判員制度は人民からわき上がってきたものではない、根無し草でくだらない」と言われます。
とのこと。

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一般人複数が何を判断するのだろう。
言われてみれば、よく分からない。
多数決というあたりも、分からない。