その名前は私にとって思い出深い
幸せにもしなかったが
大して不幸にもしなかった
見かけると思い出して
これが個人のこころの歴史というものかと思う
はるか昔
関東大震災はうそだけれど
それくらい昔
ーー
お年寄りのお話をうかがう
関東大震災のとき
まだ赤ん坊だった
母親と姉がいた時に
震災にあった
母親は驚いて
その人をハンモックに残したままで家を飛び出した
揺れがすこし落ち着いたあとで
まだ子供だった姉が気づいて
赤ちゃんはどうしたのと聞くと
母親は、まあ、大変、忘れてきちゃった、と言った
姉が勇敢にも家に戻り、
赤ん坊を助けたのだと言う。
その話を姉に何度も聞かされて、
姉のその話を聞くのが大好きだったと
その人は語るのだ
戦争はそれからあとの話だ
長い長い人生
腰が曲がっていないですね、
牛乳が好きですからなどと話している