当局の危機への対処の誤りが暴落を呼んだのです。
まず間違えたのは、7月に1バレル150ドルに近づいた石油価格に恐怖を感じ、利上げに踏み切ったECB(欧州中央銀行)でした。石油や食料品の価格上昇が、次には需要を落ち込ませ、デフレを生むという、35年前のオイルショック時に日本の高橋亀吉氏が指摘したメカニズムを無視しました。当面の物価上昇にパニックを起こして、金融危機が始まったのに金利を引き上げたのでした。
しかも、オイルショック当時とは違い、先進国から途上国への労働流出が起きているから、賃金面からのインフレ圧力がない、というこれまでに私が指摘した点への洞察もなかったのです。1999年の大底である1バレル9.9ドルから150ドルにまで石油価格が上昇しても、先進国でインフレが起きないのは、人件費という、最大の物価決定要因が上がらないからなのです。
次に、米国当局も決定的な誤りを犯しました。9月中旬のリーマン・ブラザーズの破綻を放置し政府系金融機関のファニーメイ、フレディマックの株式の価値がゼロになることも放置しました。戦前の経済体制なら、完全に大恐慌に突入していたような重大なミスでした。
これによって、世界の金融市場は全面マヒ状態になりました。銀行も証券会社も相手がいつつぶれるか分からないから、お互いに資金を貸さなくなりました。資金は国債に逃避し、米国債の利回りはゼロに近づきました。
反対に、民間の銀行間取引金利であるLIBOR(ロンドン銀行間取引金利)はわずか20日間で、2.7%から4.7%にまで跳ね上がったのです。巨大銀行でも市場から資金が取り入れられない状態が続きました。米国政府が約70兆円の金融機関救済策を発表しても、全く効き目がありませんでした。
戦前との違いが出たのがここからでした。事態の重大さにやっと気がついた欧州諸国が、いっせいに銀行と預金者の保護に回り、400兆円を超える前代未聞の救済策を発表しました。ようやく、幻のインフレの恐怖よりも、本当の恐怖が金融危機と景気の大幅減速であることを悟ったECBは、米国のFRB(連邦準備理事会)と一緒に協調して金利引き下げを行ったのです。
日銀が欧米との協調利下げに参加しなかった報いは、為替に表れました。利下げをしない日本の円だけが標的となって買われ、1ドルが90円にまで近づいたのが10月24日でした。円高パニックが株式パニックを呼びました。
週明けの28日には日経平均は7000円を割り込み、解散価値の7割という、理論的にはあり得ないところまでパニック売りが進んだのです。外国人を中心に、円の上昇で、追証や換金売りが大量に発生して投げ売りが進んだのです。大恐慌が来る、銀行預金は封鎖される、といった本が売れ、メディアが恐怖をあおる中で、日本人の多くが翻弄されました。
危機を深めたことが暴落を呼び、普通では難しい、財政による金融機関の保護や救済が大規模に可能になったのです。危機の大きさが、解決策の導入をも早めたということです。
これからも、金融危機や経済の低迷は、欧米を中心に続くでしょう。しかし、世界戦争につながるような大恐慌も大インフレも来ないでしょう。それどころか、欧米や日本では、デフレの時代が始まるでしょう。
29年以降の大恐慌では、ドイツのような、強力な国家独占資本主義が新しい経済モデルだ、という声が起きたのです。
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ミスの連鎖として描いている。
確かにその面はあるのかもしれないが、それでけではないだろう。
しかし「日銀が欧米との協調利下げに参加しなかった報いは、為替に表れました。利下げをしない日本の円だけが標的となって買われ」などの部分は、すでに日本の金利は欧米よりずっと低いままであったわけだし、それを低くしたところで実効はないだろうと考えられた。それよりも円キャリートレードの巻き戻しの側面が強かったのだと思う。
「大恐慌が来る、銀行預金は封鎖される、といった本が売れ、メディアが恐怖をあおる中で、日本人の多くが翻弄されました」というのも表現のインフレーションだろう。予定外のことに驚いたはずですが、驚いただけで何もできなかったという人が大半でしょう。追証や換金売りも中心はアメリカの大投資家のあたりだったと聞いている。日本人なのに資産の全部を外貨にしているという人もあまりいないだろうから。円独歩高の場合、強くなった円で操作すればかなり有利になりはず。
とはいうものの、結果としては一瞬でも90円まで行ったわけで、大きすぎる振幅はかなり困る。
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とりあえずは規制強化、監視強化の方針だろうけれど、
もちろんその監視をくぐり抜けて商売しようとするはずで、
なんとも仕方がない現実である。